QUEBEC CITY, QC - JULY 07:  Kendrick Lamar performs onstage headlining Day 2 of the 50th Festival D'ete De Quebec on the main stage at the Plaines D'Abraham on July 7, 2017 in Quebec City, Canada.  (Photo by Ollie Millington/Redferns)

Ollie Millington/Redferns

ケンドリック・ラマーとは

- 稀代のバランサーがもたらすユニークな立ち位置 -

DECEMBER 3 , 2019

Written by ヨシダアカネ

Edited by SUBLYRICS

2019年も終わりが近づき、Pitchfork、Complex、Billboardなど各音楽メディアが一斉に2010年代のベスト・アルバムを発表し始めた。

歌詞の共有機能でも有名な音楽メディアGeniusが発表した“ The Genius Community’s 100 Best Albums of the 2010s ”において、メジャーアルバム全3作品がランクインしたのはラッパーKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)
ランキングの概要は2017年リリースの『DAMN.』が42位、2013年リリースの『good kid, m.A.A.d city』が10位、2015年リリースの『To Pimp A Butterfly』が2位という結果であった。

Geniusを代表に多くの音楽メディアでベスト・アルバムに選出され、ラップというジャンルに限らず2010年代の音楽シーンを語る上で欠かせない存在ともいえるアーティスト、ケンドリック・ラマー。
今記事ではそんな彼にフォーカスを当て、彼の人気の秘密、その評価を裏付ける理由を2010年代が終わる直前であるこのタイミングに今一度考えたい。

(Kendrick Lamar : Instagram)

Kendrick Lamar Duckworth(ケンドリック・ラマー・ダックワース)
1987年生まれ現在32歳、カリフォルニア州コンプトン出身のラッパー。Top Dawg Entertainment 所属。2010年に初スタジオ・アルバム『Section. 80』をリリースして以降、計3枚のメジャー・アルバムを公開。2018年には、ピューリッツァー賞の音楽部門を受賞した初の非クラシック音楽、非ジャズ音楽家となった。

ギャングスタ・ラップ?
コンシャス・ラップ?

ラマーはメディアやファンの間で「ギャングスタ・ラッパー」と呼ばれることもあれば、「コンシャス・ラッパー」と称されることもある。彼の魅力の一つがここにある。

長らく「ギャングスタ・ラップ」と「コンシャス・ラップ」は対義語として使用されてきた。
ギャングスタ・ラップは、金品や銃、酒、ドラッグ、従属物/所有物としての女性などを描写の対象とし、その暴力性や猥雑さは度々批判の的にされてきた。
一方で、コンシャス・ラップは社会的/政治的な主張を含む、いわゆる「意識高い系」ラップと言える。

これらは果たして全くの対で、相容れないものなのだろうか?

ギャングスタ・ラップが、先述の自らを大きく見せるような表現を採用するのは、ストリートにおける自己防衛のためであると考えることができるし、コンシャス・ラップが自己愛や誇り、気づきを促す啓蒙的なメッセージを送るのは、内省を通じて現状を打開し改善へと向かうためであると言える。

つまり、ギャングスタ・ラップとコンシャス・ラップには、現代社会を「サバイブ」するための術をラップしているという共通点がある。

そして、2ndアルバム『good kid, m.A.A.d city』(2012) において彼は、ギャングスタ・ラップとコンシャス・ラップが「一人のラッパーの、一つの作品として」矛盾なく成立することを証明した。何を隠そう、アルバムタイトルにそれが表れている。

「good kid, m.A.A.d city = 狂った街の優等生」

ギャングスタ・ラップの金字塔を打ち建てた N.W.A. がレぺゼンした街としても有名なコンプトンに生まれたラマーは、仲間たちがギャングやドラッグ・ディーラーになる様子を目の当たりにしてきた。時には同調圧力に負けて悪事を働きつつも、 m.A.A.d city(狂った街・コンプトン)において good kid(優等生)でいることを貫いた(*1)

彼は幼き頃からの憧れである2Pac(2パック)や Snoop Dogg(スヌープ・ドッグ), Biggie(ノトーリアス・BIG)といったギャングスタ・ラッパーのスタイルを踏襲しつつ、 good kid の視点によるコンシャスなストリートの物語を紡ぐことに成功したのである(*2)

But I’m with the homies right now
And Momma used to say (Say, say, say, say)
One day it’s gon’ burn you out (Woo)
One day it’s gon’ burn you out, out, out
One day it’s gon’ burn you out (You, you, you, you, you, you)
One day it’s gon’ burn you
But I’m with the homies right now

でも俺は今ホーミーたちといるから。
ママがよく言ってた。
いつか身を滅ぼすぞって。
いつか俺の身を滅ぼすんだって。
でも俺は今ホーミーたちといるんだ。- ” The Art Of Peer Pressure “

ちなみに当の本人は2017年のインタビューにて、自らその肩書きについて 50 Cent(50セント)の発言を引用しながら言及している。
彼曰く「コンシャス・ラップ」の定義は、自らの感情に「自覚的であるか否か」によるものなので、「僕らはみんなコンシャス」であるとのこと(*3)。この引用元がギャングスタ・ラップの代表格である50 Centのものであることもまた、おおいに示唆的である。

 

 

ラッパーからライターへ

2015年1月、XXL誌のケンドリック・ラマー特集号において、彼は “ Writer At War “(戦時中の作家)というタイトルの序文を寄稿している(*4)

そのなかで彼は、21歳か22歳くらいのとき、ラップをマスターし言葉を巧みに操ることが全てだったそれまでの状態から、自分のライター(作家)としての側面をより重視し始めたと述べている。
彼の友達がしっかりした作品を作ってもメジャーレーベルには契約されなかったことをきっかけに、自らの音楽をライターの視点から発展させ、きちんと構築するようになったそうだ。

そして見事、その努力は身を結んだ。
ラマーがライターとして作り上げた作品は、グラミー賞をはじめとする数多の賞を獲得した。ここで特筆すべきは、2018年に彼がアルバム『DAMN.』(2017) で受賞したピューリッツァー賞についてである(*5)

ピューリッツァー賞は、「アメリカの生活を描写した」「卓越した」新聞/雑誌/オンライン記事/文学/音楽に対して授与されるもので、同賞音楽部門をクラシックやジャズ以外の作品が獲得するのは初めてのことだった (*6)

この権威ある賞をヒップホップの作品が受賞したという事実は、ヒップホップ・ミュージックはアートとして正当に評価されうる/されるべき表現様式であることを示している。ヒップホップをネクストレベルへと押し上げたラマーの功績はとてつもなく大きい。

(Kendrick Lamar : Instagram)

 

 

Section.80 の代弁者

ピューリッツァー委員会は『DAMN.』について、「現代を生きるアフリカ系アメリカ人の人生の複雑さを捉えている」と評する。
The Guardian誌のLynskey氏も述べるように、この評価は『DAMN.』以前の
作品についても当てはまる。
ここからは、実際にラマーがどんな表現方法によって、どんなメッセージを伝えているのかを紐解いていこう。

彼を語る上でのキーワードとして「自分第一主義(Reflection of self first)」というものを挙げたい。これはトランプ大統領就任に際して「変化」をどう起こすか。という文脈のなかで語られた言葉であるが、この「自分第一主義」という姿勢は彼の音楽にも反映されている(*7)

前掲のXXL 誌によるインタビューで彼は、音楽を作るのは自分のためであることも公言している。
2015年にリリースされた3rdアルバム『To Pimp A Butterfly』では、前作『good kid, m.A.A.d city』の成功による周囲の変化に葛藤するラマーの姿が、徹底的な内省を通じて描かれている。

「”pimp” – 搾取」される危機に瀕したラマーは、「アメリカで」「黒人として」生きることを妨げるものの存在に気付く。彼は怒りや痛み、戸惑いを吐露し、アルバム終盤の15曲目 “ i ” で自己愛を宣言し、黒人として生きることの誇りを声高に叫ぶ。

「ハードでタフな姿勢を貫くべきである。」という従来のラッパー像とは一線を画すような、ありのままの姿を曝け出す行為は、彼にとっての「セラピー」であり「実際の自分を理解する」ための手段だ(*8)
「自分第一主義」的なラマーの苦しみと救済の旅に並走することで、リスナーもまた自己の内面と向き合い「変化」を起こすための手がかりを得ることができるだろう。

最後に、1stアルバム『Section.80』より “ Ab-Soul’s Outro ” の中の一節を引用したい。このラインはここまで語ってきたようなラマーのラッパーとしてのスタンスを明確に表している。

People say I speak for generation Y
Why lie, I do, Section.80
…..
I’m not on the outside looking in
I’m not on the inside looking out
I’m in the dead fucking center, looking around
…..
I’m not the next pop star, I’m not the next socially-aware rapper
I am a human motherfucking being over dope-ass instrumentation

みんなは俺がジェネレーションY (*9)を代弁するって言う。
嘘じゃない、本当さ。Section.80(*10)
(中略)
俺は、外部から中の様子をのぞきこんでいないし、
内部から外の様子をうかがっていない。
俺がいるのはまさに渦中、周囲に目を向けている。(*11)
(中略)
俺は次なるポップスターでもなければ、意識高い系ラッパーでもない。
ドープな音に乗るただの人間さ。(*12)- ” Ab-Soul’s Outro “

ジェネレーションYの彼は、同世代の代弁者やポップスター、コンシャス・ラッパーとしての役割を担うことを否定し、あくまでも中心から見た自分、ないし自分の周囲のストーリーを語るというスタンスをとる。
しかし、そのストーリーの端々のどこかにはあなたや私が存在する(*13)。ラマーにはそのつもりがなくても、結果として彼は現代に生きる私たちの意見や感情を代弁しているのである。

 

 

おわりに

「ケンドリック・ラマーにフォーカスを当て、彼の人気の秘密に迫る」といういささか大きなテーマを設け、ラッパーとしての彼の位置づけを様々な角度から検証した。
概観してみると、ラマーの「自己第一主義」(「自己中心主義」と言い換えてもよいだろう)的ポジショニングは、その抜群のバランス感覚に裏付けられているように思う(*14)

最後までお読み頂いた方は察しがつくだろうが、 ケンドリック・ラマーについて語るべきことはこれ以外にも有り余るほどある。作品の緻密さ/複雑さや、彼の持つコンテクストの広さ/深さは計り知れない。前作 『DAMN.』から約2年。父親となった ラマーの次なる作品を心待ちにしよう(*15)


出典・注釈

[1] Kendrick Lamar, “The Art of Peer Pressure,” Genius Lyrics, https://genius.com/Kendrick-lamar-the-art-of-peer-pressure-lyrics. accessed November 29, 2019.

[2] Insanul Ahmed, “Erykah Badu Interviews Kendrick Lamar, Gets Him To List His Top 10 Favorite Rappers,” Complex, May 9, 2013,  https://www.complex.com/music/2013/05/
erykah-badu-interviews-kendrick-lamar-gets-him-to-list-his-top-10-favorite-rappers. accessed November 29, 2019.

[3] Zack O’ Malley Greenburg, “Kendrick Lamar, Conscious Capitalist: The 30 Under 30 Cover Interview,” Forbes, November 14, 2017, https://www.forbes.com/sites/
zackomalleygreenburg/2017/11/14/
kendrick-lamar-conscious-capitalist-the-30-under-30-cover-interview/
#14ec92043979. accessed November 29, 2019.

[4] Kendrick Lamar, “Writer At War: Kendrick Lamar’s XXL Cover Story,” XXL, January 6, 2015, https://www.xxlmag.com/news/
2015/01/writer-war-kendrick-lamar-own-words/?curator=MusicREDEF. accessed November 29, 2019.

[5] Dorian Lynskey, “From Street Kid to Pulitzer: Why Kendrick Lamar Deserves the Prize | Music,” The Guardian, April 22, 2018, https://www.theguardian.com/music/
2018/apr/22/kendrick-lamar-wins-pulitzer-prize-damn-album.
accessed November 29, 2019.

[6] Columbia University, “2018 Pulitzer Prize Winners & Finalists,” The Pulitzer Prizes, 2018, https://www.pulitzer.org/prize-winners-by-year/2018. accessed November 29, 2019.

[7] Brian Hiatt, “Kendrick Lamar on ‘Humble,’ Bono, Taylor Swift, Mandela,” Rolling Stone, August 9, 2017, https://www.rollingstone.com/music/music-features/kendrick-lamar-the-rolling-stone-interview-199817/. accessed November 29, 2019; “ケンドリック・ラマーが語る、トランプ政権下の社会に変化をもたらすのは「自分第一主義」,”Rolling Stone Japan, June 22, 2019, https://rollingstonejapan.com/articles/
d
etail/28707. accessed November 29.

[8] Dorian Lynskey, “Kendrick Lamar: ‘I Am Trayvon Martin. I’m All of These Kids’ | Music | The Guardian,” The Guardian, June 21, 2015, https://www.theguardian.com/music/2015/
jun/21/kendrick-lamar-interview-to-pimp-a-butterfly-trayvon-martin. accessed November 29, 2019.

[9] アメリカにおいて、1980年代~1990年代中盤に生まれた世代のこと。

[10] 2つの意味がかかっている。①1980年代生まれ ②レーガン政権下の政策 “Section 8 housing” をもじったもの

[11] 小林雅明「ケンドリック・ラマー・クロニクル」『ユリイカ』(青土社、2018年)、212ページより引用。

[12] 注11部分以外は拙訳。

[13] これは Lamar の卓越した表現技法に起因するものだが、これに関する検証は稿を改めて述べたい。

[14] 注8のインタビューでは、To Pimp~ の制作について「実際このアルバムは、かつていた場所と今いる場所、これらのバランスをあらゆる角度からとろうとする自分自身のことなんだよ」と述べている。

[15] “ケンドリック・ラマ―、婚約者が第一子を出産!,” MTV Japan, June 29, 2019, http://www.mtvjapan.com/news/
f1fmae/190729-04. accessed November 29.

 
WRITER : ヨシダアカネ
 
アイドルミュージックやPOPS、ROCKなど、多岐にわたるジャンルの音楽を熱心に聴く思春期を経てHIPHOPに出会う。
ダンサーとして活動するなかで、XXX-LARGEのMETH氏と出会いHIPHOPの歴史やその本質について考えるように。
元来、好奇心旺盛である彼女は、生粋のクラバーとしての童心はそのままにストリートカルチャーに没頭し、貪欲に知識を吸収し考察を行う。
現在は京都の大学院にて、黒人文化を中心とした研究を行ないながら関西各地のパーティに足を伸ばしている。
 
 
Twitter: @bonita_1123
Instagram: @akane.ysd

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