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Vibe

Tory Lanez の過激なパフォーマンスから見る
「アーティストによるコロナ禍のムーブメント」

May 25, 2020

Tory Lanez(トリー・レーンズ)をご存知だろうか。甘く聴かせるR&Bからセルフボースティング激しいラップまで縦横無尽に乗りこなす、カナダはトロント出身のシンガー兼ラッパーだ。

2020年、世界は新型コロナウイルスの蔓延で幕を開けた。中国、日本などのアジアはもちろん、その猛威はとどまるところを知らず、NYの感染者は20万人にも昇るほど。当然アメリカの音楽業界も大打撃を受け、アーティストたちは、コンサートの中止、アルバムの発売延期などを余儀なくされた。

そんな中、めざましい活躍を見せたのが、彼トリー・レーンズである。自身のインスタグラムアカウントを使って自宅で配信する「QUARANTINE RADIO」、youtubeでの無観客ライブ「Social Distancing Tour」など、自粛期間中様々な方法で、私たちの「おうち時間」を楽しませてくれた。(「QUARANTINE RADIO」はファンにトゥワークさせるなど、少々過激さがウリでインスタグラムのアカウントをバンされたことも。)

さて、そんな少々お騒がせな彼が先日リリースしたシングル「Tempertature Risng」。前所属レーベルInterscopeを離れて、心機一転のスタートだ。

Temperature risin’ (Temperature risin’)
Makin’ love slow (We’re makin’ it slowly)
Your body’s callin’ (It’s callin’ me, yeah)
Rubbin’ on me slow (Slow)
Got my attention (You got my attention
Undivided (And it’s undivided)
I wanna love ya
This time, this time, I wanna love ya
Tonight it’s a love makin’ affair

体温が上がってく
ゆっくり愛し合おう
君の体が呼んでる
ゆっくり体をこすりつけて
気をひいて
一つになる
今君を愛したい
情事の今夜

彼のR&Bシンガーとしての手腕がいかんなく発揮された、情欲的なラブソング。MVは部屋で睦み合う二人というシンプルな内容ながら、吐息の聞こえそうなほどの寄り、かつくるくると変化するカメラワーク。まるでその場で二人の情事を覗き見しているような、そんな雰囲気を感じさせるものとなっている。二人きり。誰もいない。外にも出られない。することは一つ。その閉鎖性がより、我々の官能を誘うものに仕上がっている。トリーのツイッターにはこのようにある。

“ TEMPERATURERISINGが今夜発売だ!コロナのタイミングで産まれた赤ちゃんの80パーセントはこの曲のおかげになるかもね。要チェック! ”

トリーにとっては、このコロナの自粛期間も恋人と濃密な時間を過ごすための、一つの良いきっかけに過ぎないのかもしれない。

また「QUARANTINE RADIO」の内容に関しても、視聴者に人気なのは女性ファンたちに夜トゥワークなどのセクシーなパフォーマンスである。自粛期間中にフラストレーションが溜まっているであろうトリーの女性ファンたちは、ノリノリでパフォーマンスを繰り広げており、牛乳をお尻にかけるなどハメを外して大暴れ。女性たちを煽るトリーは天下一武道会のアナウンサーさながらだ。

彼は「どんな体型、肌の色、民族であるかなんか気にしないよ。女性に恥ずかしいなんて絶対に思って欲しくない。」と語る。ステレオタイプに縛られがちな女性たちが、彼のラジオで堂々とセクシーに振る舞えるのは、トリーの女性を尊重する態度に安心を覚えているからかもしれない。ちなみに4月9日、「QUARANTINE RADIO」は36万人もの視聴者を記録し、コロナ渦の中でもっとも成功を収めたインスタグラムライブとなった。

さらに5月2日には「Social Distancing Tour」と銘打たれた本人のネットライブがyoutube上で生配信された。ライブでは投げ銭システムが導入されており、視聴者は自由に寄付ができる形をとっていたのだが、その収益はチャリティとして寄付されることとなっていた。ライブは現在視聴者130万人以上、60ドルも寄付した視聴者も現れ、新たなネットビジネス、チャリティーの形を提示する一つのロールモデルとなった。

また、「QUARANTINE RADIO」での成功を受け、トリーは5月4日、コロナで苦しむ人々への救援活動のために「The Dream City Fund」を立ち上げると発表した。この基金は、2012年に父親と共同で設立した「The Dream City Project」 と、ロサンゼルスを拠点とする慈善団体「Dream Center」とのコラボレーション事業である。このニュースはCNNでも取り上げられ、アメリカ全土に大々的に報じられることとなる。

「ロサンゼルスをはじめ他のコミュニティでサービスが行き届いていない家族に食事とおむつを提供するために資金を集める。最初にAmazon Musicがオムツ5万個の費用を負担することを約束してくれた。」とトリーは話す。彼自身、歌手として成功する以前は、貧しい生活を強いられていたので、苦労している家族を支援する必要性を感じたのだろう。また彼の3歳の息子は呼吸器系の問題を抱えており、ウイルスのリスクが高くなる基礎疾患を抱える子供を持つ家族を特に危惧している。はじめは単なる暇つぶし程度だったラジオから、ここまで社会的に意義のある事業に発展するなど、誰が予想しえただろうか。

全世界がコロナの影響下を大きく受ける中、様々なアーティストが「今この状況だからできること」に取り組んだ。自身の豪邸でダンスを踊るというMVのDrakeの「Toosie Slide」、コロナで会うことができない恋人たちについて歌ったTrey Songz の「Back Home (feat. Summer Walker)」。

他にもインスタグラム上でのライブ、ラジオ等SNSを駆使した動きもそこかしこで見ることができた。しかしやはり今回のコロナ渦で、もっとも社会に影響を与える有意義な活動を見せたのはなんと言ってもトリー・レーンズであろう。この勢い冷めやらぬまま、コロナ収束後にも注目していくべきアーティストなのは間違いない。

Credit

Writer : たかね 

ブラック・ミュージックをこよなく愛するベビーフェイス社会人。本職は「ことば」を教える仕事。大好きな音楽とことばを使ってできることなら何でもやります。

 

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