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Album Cover

アルバムカバーアートで振り返る2020年 | 第63回グラミー賞 最優秀レコーディング・パッケージ賞

December 21, 2020

第63回グラミー賞ノミネート作品が発表

米The Recording Academyが主宰する、音楽業界で最も権威ある賞として、全世界中のアーティストや音楽ファン、音楽関係者が注目する「The Grammy Awards(以下、グラミー賞)」のノミネート作品が11月24日に発表された。

音楽産業において優れた功績を残したアーティストやクリエイターの業績を讃え、業界全体の復興と支援を目的とする本授賞式。例年全米でテレビ放送されるお馴染みの主要4部問が注目されるが、賞のカテゴリーは2020年現在84部門(※1)と膨大になっており、音楽ジャンル別はもちろん裏側で支えるエンジニア向けの部門や映像部門もあり、業界全体をカバーする授賞式となっている。

(※1)「最優秀イマーシブ・オーディオ・アルバム」は コロナの影響により審査が次回に持ち越されたため、第63回は全84部門のうち83部門の発表となった。

毎年必ず賛否両論の声が上がる中、今年はRoddy Ricch(ロディ・リッチ)が6部問にノミネートされたり、D SmokeやCHIKA、MEGAN THEE STALLIONが「Best New Artist」にノミネートされ、ポップカルチャーシーンにおけるラップの重要性が証明された一方、最新作『After Hours』でマルチプラチナムを記録したにもかかわらずThe Weekndのノミネートが一切なかったことについて、一部の音楽ファンやあのDrakeまでもが怒りをあらわにしており、本人もまた賞に対する批判を吐露するツイートしている。

さて、読者の方々であれば既にチェック済みの方も多いかもしれないが、音楽作品のカバーアートにフォーカスしている本特集では今回、アルバムのカバーアートに送られる「Best Recording Package(最優秀レコーディングパッケージ賞)」の例を紹介すると共に、ノミネート作品をそれぞれを見ていきたい。

「Best Recording Package」とは

「Best Recording Package」は、グラミー賞の1部門であり、音楽作品のビジュアル(アルバムカバーアートやグラフィックアート、写真等)の制作に携わったアートディレクターやデザイナーに送られる賞である。

カバーアートに対する賞は1959年の第1回グラミー賞から実施されている。その後、1962年〜1965年にクラシカル部門とノンクラシカル部門に分けられ、1966年〜1968年にはグラフィックアート部門と写真部門に分けられるようになった。1974年には賞の名称が「Best Album Package」に変更され、1994年に現在の名称に変更されることとなる。また、1995年にはボックス版とオリジナルエディションが「Grammy Award for Best Boxed or Special Limited Edition Package(最優秀ボックスまたはスペシャル・リミテッド・エディション・パッケージ賞)」としてカテゴリー分けされるようになった。

日本人の過去受賞実績

そんな「Best Recording Package」は、過去には日本人の受賞実績もあり、今回も「Grammy Award for Best Boxed or Special Limited Edition Package」で日本人1名がノミネートされている。せっかくなので紹介していきたい。

『Tutu』- Miles Davis

言わずとも知れた、アメリカ出身のジャズトランペット奏者Miles Davis(マイルス・デイヴィス)が1987年にリリースしたジャジーファンクアルバム。第29回グラミー賞の「Best Recording Package」にて、東京出身のアートディレクター/デザイナーの石岡瑛子氏が受賞した。当時Miles Davisが所属していたコロムビアレコードの保守的な意向を無視して制作された本作は、良い意味で帝王らしからぬ先進的なサウンドとそれを体現しようとする彼の想いがその表情から伺えるのではないだろうか。

『What It Is! Funky Soul And Rare Grooves』- Various Artists

名作のリマスターや復刻版を取り扱うことで定評のある米RHINO(ライノ・レコード)から2008年にリリーズされた7インチ25枚ボックスセット。第50回グラミー賞の「Grammy Award for Best Boxed or Special Limited Edition Package」にて、パッケージデザインを担当した小池正樹氏が受賞した。DJ視点で選曲された収録曲は、ジャズ、ロック、ポップといった幅広いレンジのサウンドを再定義しており、カバーアートにおいても60年〜70年代のファンクヒストリー臭が全面的に押し出されている。

『Woodstock: Back to the Garden –
The Definitive 50th Anniversary Archive』- Various Artists

1960年代のアメリカのカウンターカルチャーを象徴する、ロックフェスの原点と言っても過言ではない歴史的なイベントとして語り継がれる「ウッドストック・フェスティバル」の50周年を記念した38CDボックスセット。フェスが開催された3日間のほぼすべての演奏、音源を収めたアーカイブ作品となっており、ラジオ中継もテレビ中継もなかった当時の重要なオーディオドキュメンタリーとなっている。

パッケージデザインを担当した小池正樹氏は、第62回グラミー賞の「Grammy Award for Best Boxed or Special Limited Edition Package」にて受賞。2度目の受賞となる同氏は日系アメリカ2世で、日本の蕎麦のパッケージなどから多くの影響を受けたとこをインタビューの中で明かしている。当時のヒッピーや若者の様子を写した写真が所狭しに花形に散りばめられたそのカバーアートは、来るべき新しい「ロックの時代」の到来を高らかに告げたウッドストックを祝福するに相応しく、愛と平和のメッセージを現代に伝える最適な手段となったことは間違いないだろう。

では、早速第63回グラミー賞の「Best Recording Package」ノミネート作品を見ていこう。

第63回グラミー賞「Best  Recording Package」ノミネート作品

『Everyday Life』 – Coldplay

英ロックバンドのColdplay(コールドプレイ)が2019年にリリースした通算8枚目となるアルバム。「日常」というタイトルの本作では、アルバムの前半にあたる1〜8曲目を「Sunrise(日の出)」、後半にあたる9〜16曲目を「Sunset(日の入り)」に分け、2部構成全16曲で1日を表したコンセプトアルバムとなっている。戦争や紛争といった社会問題に触れながらも、あくまで「国や宗教、言語、文化に違いはあれど、世界中誰しも1日は訪れる」という普遍的なメッセージを伝えている本作。リリース前に実施したワールドツアーで、バンドメンバーが世界中の様々な土地で暮らす人々と出会ったことがインスピレーションとなっているとのこと。

アートディレクターを担当したのは、前作『A Head Full of Dreams』と同様グラフィックデザイナーのPilar Zeta氏。同氏は他にもKaty Perryの『Teenage Dream』のコンテンツデザインやMiguelのBET Awardのクリエイティブディレクションなども手掛けている。今回のカバーアートに用いられているのは、ColdplayのギターリストJonny Bucklandの曽祖父のバンドが1919年に撮影した写真に、彼らの顔を合成したものとなっている。「100年前も現在も日常は変わらず誰にも訪れる」とも受け取れるし、社会的なメッセージを汲み取れば、「戦争や紛争、難民、性差別、政治的腐敗は今も昔も変わらない」という皮肉的なメッセージにも読み取れる。

『Funeral』 – Lil Wayne

米ニューオーリンズ出身のラッパーLil Wayne(リル・ウェイン)の通算13作目は、決して批評家からの評価が高かったわけではないものの、ニューオーリンズバウンスやサウストラップ、ポップ調の多方面なサウンドを取り入れており、その曲数からも本格的にストリーミングゲームの土俵に立ったことが読み取れる。アートディレクションを担当したのはカリフォルニア出身のビジュアルディレクターのKyle Goen氏。同氏は他にも JAY-Zの『Vol. 3…The Life and Times of S. Carter』やSki Mask the Slump Godの『STOKELEY』等のカバーアートの制作も手掛けている。まず特筆したいのがタイトル「Funeral」のロゴデザイン。上下逆さまにすると「Lil Wayne」となるデザインは精妙極まりなく、これだけでもノミネートに相応しく感じられる。また、本作の収録曲「Bing James」では、次の曲との間に24秒間の無音の時間が収録されており、リリース直前に事故死した背番号24番で有名なNBA選手コービー・ブライアント氏に向けた追悼の意が込められている。収録曲数が24曲であることも彼への想いが込められていると考えられる。また、育て親として知られるキャッシュマネーレコードのBirdmanとの長年の確執の和解の末リリースすることができた本作は、レーベルとのビジネスの終焉をも仄かしているのではないだろうか。

『Healer』 – Grouplove

iPod TouchのCM使用曲「Tongue Tied」でお馴染みのLA出身米英男女混合バンドの3年ぶりのアルバムのカバーアートを担当したのは、バンドのヴォーカル兼キーボードのHannah Hooper(ハンナ・フーパー)氏。インタビューでは、前作リリース後の制作メンバー脱退を受け、新たにメンバーを2名増やした新しいバンドとしてのアウトプットの回復と自身の闘病生活からの回復を表していると語っている。また、ヴォーカルのChristian Zucconi氏は今回の作品で宗教の信仰、共同体に対する自分の所属感、自分の精神等、身の回りの全てのものへの疑問点に向き合っていると語っており、そんなメンバーそれぞれの想いをバンドらしいカラフルなタッチで描写している。

『On Circles』 – Caspian

米マサチューセッツ州のインストゥルメンタルロックバンドCaspian(カスピアン)の5作目となる本作のアートディレクターを務めたのはJordan Butcher氏。重いギターのリフとどこかノスタルジックさを感じさせるシンセサイザーのアンビエントな音色、カバーアートのアトモスフェリックな雰囲気と色合いはうまく調律が取られており、開いた扉はまさに彼らの新しい出発を表しているかのようである。

『Vols. 11 & 12』 – Desert Sessions

米カリフォルニア出身のハードロックバンドQueens of the Stone AgeのフロントマンJosh Homme率いるコラボレーションプロジェクトであるDesert Sessions(デザート・セッションズ)。そんな彼らの最新プロジェクトが16年ぶりにリリースされた。アートディレクターを務めたのは、Doug Cunningham氏とJason Noto氏の二人。今では伝説的なプロジェクトとなった彼らだが、友人同士での気軽な作曲やレコーディング・セッションから始まったこのプロジェクトならではのアソビゴコロが垣間見れるコミカルなカバーアートとなっている。

おわりに

さて、如何だっただろうか。主要4部問のみ注目されがちのグラミー賞だが、もはや音楽作品と切り離すことができないカバーアートにフォーカスして見る事で、新たな視点でグラミー賞や音楽作品を楽しむ事ができるのではないだろうか。来年1月31日の授賞式を楽しみに待ちたい。

Credit

Writer : 平川拓海
学生時代に始めたストリートダンスやクラブでのバイトを通して、音楽を中心としたストリートカルチャーに触れる。在学中に『TALENTED_TENTH 〜ラップ・ミュージックは何を伝えたのか〜』を執筆。現在はサラリーマンをする傍ら、音楽ライター/音楽キュレーター/DJとして活動中。クラブで踊る時間が一番の幸せ。
IG : @_takumihirakawa TW : @_takumihirakawa

Edited by : SUBLYRICS

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