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Currents - Tame Impala
人生の「流れ」と共に生きるということ

May 13, 2020

オーストラリア・パース出身のミュージシャン、Kevin Parker(ケヴィン・パーカー)によるモダンサイケデリックロック・ソロプロジェクト、Tame Impala(テーム・インパラ)

今年2月14日には最新アルバム『The Slow Rush』をリリースし、来たるフジロックフェスティバル2020にもヘッドライナーとして出演する予定の彼だが、今回は彼の3作目のアルバム『Currents』のカバーアートを通して、彼が今作に込めたメッセージや想いを考察していきたい。

2015年7月17日にリリースされた本作は、第56回グラミー賞で最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム部門にノミネートされ、Billboard や Pitchfork 等のメディアにおいても批評家からの評価を集めハイスコアを叩き出した。その明るくはっきりとした80’sのドラムと70’sのシンセサイザーのサウンドの上で奏でられるKevin Parker のハイトーンボイスに酔いしれたリスナーの方々にとっては、比較的記憶に新しいことであろう。

そんな本作のカバーアートは、アメリカ北部ケンタッキー州出身のデザイナーRobert Breatty が制作を務めた。彼はカバーアートの制作過程について、Vice のインタビューの中で以下のように語っている。

“ Kevinからは落ち着いた環境に動揺を起こすもの、またそれが起こす動きを表現して欲しい、と頼まれたんだ。イタリアのデザイナーFranco Grignaniの作品やチェコの映画ポスターを参考に制作したよ。カルマン渦(流れの中に障害物を置いたときにその後方に交互にできる渦の列)を表しているんだ。”


FRANCO GRIGNANI COVER DESIGN FOR PENGUIN, VIA GRAPHEINE

「落ち着いた環境に動揺を起こすもの、またそれが起こす動きを表現して欲しい」というKevin の言葉の裏にはどのような想いやメッセージがあったのだろうか。楽曲の歌詞から紐解いていきたい。

1.Let It happpen

” It’s always around me, all this noise
それはいつも俺の周りにつきまとうんだ この騒音は

But not nearly as loud as the voice
でもあの声ほどうるさくはないんだ

Saying, “Let it happen, let it happen (it’s gonna feel so good)
それを起こしてしまえ それを起こしてしまえ(気分がいいぞ)

Just let it happen, let it happen
ただそれを起こしてしまえばいいのさ それを起こせばね “

本作を読み解くにあたり重要となる本曲は、アルバムのタイトルと通り「それを起こさせること」をテーマにしている。では「それ」とは何なのだろうか。

まず騒音とは、世間や社会情勢、彼の身の回りの日常(ルーチン)のことを指している。なぜなら、彼は日常の生活に満足しておらず、また、そのような生活に無意識にはまっている自分に嫌気がさしていると常々語っているからである。例えば、『Innerspeaker』に収録されている「Desire Be Desire Go」の歌詞でにも“ Every day, back and forth, what’s it for? – 毎日が繰り返し、何のために日常はあるんだ? ”と日常のルーチンを拒絶する想いが語られている。

そのような外界の騒音を遮断してきた彼だが、一方で、「それを起こしてしまいな」という自分自身の内の声にも気付く。詳細は後述するが「それを起こしてしまえ」とは「何か物事を起こして、その流れに身を任せてしまえ」ということを表している。以降の曲で彼は変化というものを受け入れ、その変化に抗うことをせずに、ただ人生の流れに身を任せようと決心するのである。なぜなら、人生の流れという物は人それぞれの中に流れており、制御はできないと学んだからである。

3.Yes I’m changing

Another version of myself
別バージョンの自分

I think I’ve found at last
やっと見つけたんだ

And I can’t always hide away
そして俺はいつも隠せないんだ

Curse indulgence and despise the fame
呪いにふけることと名声を嫌うことをさ

There is a world out there
そこには世界が広がっているのさ

サビで“ So don’t be blue There is another future Waiting there for you – 後悔しないで欲しい、そこには明るい未来が待っているから ”とパートナーとの別れをポジティブに歌う本曲。元パートナーであることMelody Prochet(ソロプロジェクトMelody Echo’s Chamberのボーカル)との破局が少なくとも本曲に影響を与えていると言っていいだろう。

後半部分では“ They say people never change But that’s bullshit, they do ”と歌っており、人は時間と共に変化するものであると認めたが故に、俺たち(KevinとMelody)がやり残したことはない(=未来はない)と歌っているのではないだろうか。

特に注目したいのは、上記の歌詞の部分。Tame Impalaとして成功を収めたが故に「あなたは変わったよ」とパートナーや周りから言われることがあり、そのような声に対して今までは否定・遮断を続けてきた、と語っている彼だが、この部分の歌詞では、結局自分という人間は名声から逃れることはできない人間(別バージョンの自分)変化してしまった、ということに気づいている。だからこそ、曲タイトルが「Yes I’m changing」なのではないだろうか。

4.Eventually

I know I always said
俺はいつも口にしている

That I could never hurt you
あなたを傷つけるようなことは決してできなかったと

Well, this is the very, very last time
でもまさに、まさに最後で

I’m ever going to
傷つけることになってしまったのさ

まさにパートナーとの別れを歌った本作。今までパートナーを決して傷つけてこなかった彼だが、最終的に(Eventually)傷つける(hurt you)こととなる。本曲においても“ But I know that I’ll be happier And I know you will, too – きっと別れた方がお互い良かったのさ ”と歌っており、別れをポジティブに受け止めているように読み取れる。

「Let It happpen」のメッセージからも分かるように、彼はこのような辛い経験(今回で言えば失恋)は、あくまで人生という流れの一部に過ぎず、その流れに身を任せることで人生という物をより豊かに幸せにできると歌っているのではないだろうか。

9.Disciples

And I could tell you’ve changed
あなたは変わったわ

By the people around you
周りの人々(ファン)によって

I used to take the long way
昔はよく遠回りしたわ

Just so I could walk past your door
あなたの家のドアを通るためにね

I used to wait outside
よく外で待ってたわ

But I guess I won’t anymore
でももうそんなことはないわ

前半部分の歌詞から本曲はKevin のパートナーの視点で描かれた曲であることが分かる。“ I wanna be like we used to But now you’re worried whose audience will lose you ”という歌詞から、パートナーは昔のように戻りたいが、あなた(Kevin)はそれによってファンを失うことを恐れている、と歌っている。

前述したが、Tame Impala として成功を収め、名声を得ることができた彼と距離感を感じるパートナーの気持ちを歌った本曲は、彼女から見てもKevin という人間は変化したことが読み取れる。昔は遠回りして通っていたKevin の家も、もう行くことはないという描写から、彼女自身も変化を受け入れたことを表しているのではないだろうか。

11.Reality in Motion

There’s no one else around you
あなたの周りには誰もいない

Not that I was waiting, vision ever fading
そんなあなたを俺は待ってたわけではない 俺たちの将来は変わるのさ

Heading for the deep end
深い終わりに向かって

Soon as I remember, baby, I surrender
思い出したら負けてしまうんだ、ベイビー

I just need to breathe out
だから俺は深く深呼吸をする必要がある

Decisions are approaching, reality in motion
決定は近づいている 現実は流れているんだ

本曲では、パートナーとの失恋をきっかけに変化した彼自身の前進する姿が歌われており、新しい愛への関心や音楽に挑戦するコンテクストが含まれている。というのも、彼はGenius のインタビューの中で「数年前にLA で聞いたBee Gees の曲が忘れられないんだ。あれこそが俺がサイケに求めている音楽だよ。」とTame Impala の新しい音楽の方向性とそれに挑戦する姿勢を示唆しているからだ。新しいスタイルの音楽をファンが受け入れてくれるかという不安や自己懐疑心があるものの、自分の正直な気持ちにしたがって(流れに身を任せて)前進することを決心したのではないだろうか。実際、アルバムのラストを飾る「New Person, Same Old Mistakes」のサウンドは、ディスコシンセ・ポップ路線へシフトしていることが伺える。

ここまで本作の楽曲の歌詞を追って考察してきたが、本作は単なる「失恋」アルバムではなく、人の「変化」とそれに伴う人生の「流れ」の受け入れを表したアルバムであると考察できる。Pitchfork の彼のインタビューからもそのことが伺える。

I wouldn’t say it’s a breakup record in the literal sense. It’s more about this idea that you’re being pulled into another place that’s not better or worse. It’s just different. And you can’t control it. There are these currents within you.

アルバムのタイトル通り、これはただ失恋を記録したものとは言えないよ。これは良くも悪くもない「別の場所」に引っ張られている、というアイデアからきてるんだ。ただ別の場所さ。そしてはそれは制御できないんだ。みんなの中にこれらの人生の流れは流れているんだ。

タイトルの『Currents』は絶えず動く「流れ」という意味も持つ単語。Kevin Parker は、パートナーとの失恋を通して、人の中にはそれぞれ人生の「流れ(人を違う場所へ引っ張るもの)」が流れており、その「流れ」に抗おうとしても制御はできないため、身を任せて前進するのが良い、ということを学んだのである。今まで遮断してきた騒音や自分の変化を受け入れ、「流れ」に身を任せて生きようと決めたのだ。

また、彼の音楽観について、Pitchfork のインタビューの中で、「人は音楽を作るとき二つに別れる。地に足がついた音楽を作るか、適当な大衆受けだけのため作るかだ。最初は後者のような音楽は遮断していた。」と語っており、彼が本作でポップ路線へシフトしたことからも、自らの変化を受け入れ、流れ(自分がサイケでやりたいこと)に身を任せていることが読み取れる。

さて、以上を踏まえ改めてカバーアートを見てみよう。幾つもの直線は日常の「流れ」、中央部赤色の線はKevinの人生の「流れ」、銀色の玉は変化のきっかけとなる動揺を起こすもの(パートナーとの失恋)を表している。

そして、「動揺を起こすもの」によって人生の「流れ」は良くも悪くも変化し、その変化や彼の前進・挑戦する想いが波線で表現されている。赤色から黄色に変わる中央部の線は、Kevin が別バージョンの自分に変化したこと認め、受け入れたことを表しているのであろう。

ここで注意したいのが、失恋はあくまで人生の「流れ」の一部であるということ。彼が伝えたかった本質的なメッセージとは、人生の「流れ」とはそれぞれの人の中に流れるものであり、それがどう流れるかは誰にも予測できないため(歌詞の内容的に曲順がバラバラなのもそのせい)、自分の中に流れる人生の「流れ」に身を任せて、前進・挑戦していこう、ということなのではないだろうか。

Kendrick Lamerの「Backwards」やTravis scottの「SKELETONS」に客演として参加し、Asap Rrockyの「Sundress」、Kanye Westの「Violent Crimes」、Rihannaの「Same Ol’ Mistakes」等にサンプリングされる等、ヒップヒップ・R&Bシーンにおいてもそのサイケデリックなサウンドと圧倒的なスキルで影響を与え続けるKevin Parker。今後のヒップヒップシーンでの活躍はもちろん、フジロックフェスティバル2020で無事ライブが見れるよう、新型コロナウイルスの事態が収束することを祈るばかりだ。

Credit

Writer : 平川 拓海

学生時代に始めたストリートダンスやクラブでのバイトを通して、音楽を中心としたストリートカルチャーに触れる。在学中に『TALENTED_TENTH 〜ラップ・ミュージックは何を伝えたのか〜』を執筆。現在はサラリーマンをする傍ら、音楽ライター/音楽キュレーター/DJとして活動中。クラブで踊る時間が一番の幸せ。@_takumihirakawa

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