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ALBUM COVER

Eternal Atake - Lil Uzi Vert
- 「永遠の勝利」の真意 -

MARCH 30 2020

Written by 平川 拓海

Edited by SUBLYRICS

今年1月に突如自身のインスタグラムのポストを全て削除し、音楽活動の引退宣言をしたフィラデルフィア出身ラッパーのLil Uzi Vert(以下LUV)。後にレーベルとの確執が原因ということが発覚したが、そんなファンを困惑させる彼の2年越しとなる待望の最新アルバム『Eternal Atake』が3/7にリリースされた。

本メディアでも、収録曲『P2』の和訳・解説は行っているが、本記事では歌詞だけではなく、アルバムのカバーアートにフォーカスして、カバーアートに秘められたストーリー、コンテクストを踏まえた上で、今作に込められたアーティストの想い・メッセージを考えていきたい。

リリースまでの経緯 / ショート・ムービー

カバーアートの解説に入りたいところだが、まず本アルバムリリースの経緯について触れたい。
始まりは2018年7月のLUV自身のツイート。突如「Eternal Atake」の一言がツイートされてから、ファンの間では新アルバムのタイトルではないかと大きく話題になっていた。

それから幾度となく新アルバム『Eternal Atake』のリリースをファンにアナウンスしていたLUVだが、所属レーベル Generation Nowとの契約上の問題を理由にリリースが延期となっていた。リリースを直前にアルバムトレーラーとなるショートムービーが公開されたり、本人のTwitterを通してアルバムカバーアートの投票が行われたり、ファンからすると目が離せなかった1,2週間であったであろう。

そのような状況の中、3/7に待望リリースされた『Eternal Atake』だが、3/15に更新された Billboradの全米アルバムチャートでは初登場一位を記録。翌週には21 Savage、Young Thug、Future等を客演に迎えたデラックスバージョンもリリースされ(ビーフ中のRich The Kidの新アルバムリリースに対抗したと考えられる)、今後の動きから目が離せない。その上で今回、カバーアートを解説する上で欠かせないのが、以下のショートムービーである。

LUVがオフィスビルで働くシーンで始まるこのショートムービー。冒頭で登場する紫色の衣装を身に纏った女性の歌声と共鳴するかのようにLUVのパソコンに表示される不気味なメッセージや勝手に舞い上がるコピー紙は、“ 何か ”の不気味な訪れを予感させる。その“ 何か ”に引き付けられるようにオフィスからどこかの草原に向かうLUVは、突如空から墜落するUFOに遭遇し、UFOの船内からは紫色の衣装を身に付けた女性が地球へ舞い降りてくるのである。

本作のカバーアートにも描かれており、ショートムービーにも登場するUFOだが、XXLによると、これらの世界観は、1997年に集団自殺騒動を起こした宗教カルト集団 Heaven’s Gate がモチーフになっている。(LUVが自身のインスタグラムのプロフィール画像をHeaven’s GateのリーダーであるMarshall Applewhitの写真にしている。)

(Lil Uzi Vert : Instagram)

Heaven’s Gateでは、Hale-Bopp彗星(1997年に非常に明るくなった彗星。20世期で最も広い範囲で観測されたとされる彗星)が惑星間輸送UFOであると信じており、ショートムービーの中に出てくるUFOもその惑星間輸送UFOを表していると考察できる。また、Heaven’s Gateが集団自殺騒動を起こした際に、メンバーの遺体が紫色の布に包まれていたとのことから、度々登場する紫色の衣装に身を包んだ女性はHeaven’s Gateの一員と考えられる。

ショートムービー後半、LUVと女性二人は墜落したUFOの爆発に巻き込まれてしまう。回想シーンの後、スーツ姿だったLUVは衣装を変え、紫色や青色の衣装を身に纏った女性を引き連れて歩き、ラストシーンではUFOに再度吸い込まれ、地球外に輸送され、ショートムービーは完結する。詳細の解説は後述する。

ショートムービーが公開された数時間後に本人のTwitterでは、3つのアルバムのカバーアート案が公開され、その決定はファンの投票に委ねられることなったが、ショートムービーの反響もあってなのか、ファンの多数決によって本カバーアートに決定した。

 

 

COVERartwork

さて、やっとではあるが、本作のカバーアートについて触れたいと思う。

まず最初に目に留まるのが月の上に立ちながらUFOにてを振る生命体3体である。ショートムービーのラストシーン、LUVがUFOで連れ去られて地上の人々から手を振られるシーンが真っ先に浮かぶが、ショートムービーは地球上の話であるため、それとは別シーンであると考えられる。詳細は後述するが、おそらく見送っているUFOにはLUVが搭乗していると考えられる。地球が変色しているのは、Heaven’s Gateが信じる「結末」(Heaven’s Gateでは、地球は2027年までにリサイクルされ、人間が生き延びるためには、Heaven’s Gateが閉まる前に自らの魂を地球上から救済し、ネクストレベルの人間に乗り換えなければいけないと信じられていた。変色はその地球が結末を迎える様子を描いているのであろう)を表しているのであろう。
ヒップホップYoutuberのBobbalamはカバーアート左上に描かれている赤色の亀裂がHeaven’s Gateであるとコメントしており、流れ星はHale-Bopp彗星を表していると考察している。

カバーアートについてより深く考察するために、楽曲の歌詞に触れつつ解説していきたい。本作では、各楽曲のIntroとOutroでLUVのストーリーが展開されており、それらはショートムービー、ひいてはアルバムカバーアートに深く結びついている。

1.『Baby Pluto』

[Intro]
(Welcome to Eternal Atake)
(你准备好了吗?)
[Outro]
Yo, what the fuck was that?

タイトルでもある“ Baby Pluto ”は、本作の中でLUVが第二の自分として名乗っている呼称だが、その理由を自身のTwitterで「Pluto(冥王星)は小人の惑星であり、俺がBabyなのは、それが理由なんだ」と語っている。自分を地球外から来た生命体とでも言いたいのだろうか。
Introでは「ようこそEternal Atakeへ。準備はできているか?」とリスナーをEternal Atakeへ歓迎(中国語は訳すと“ Are you ready? ”となる)するかのようなセリフが挿入されている。OutroではLUVが何かの異変に気付き、以降のストーリーが展開される起点となっている。

4.『POP』

[Outro]
Pop, pop
I’m working on dying
Drop, drop
What the fuck?
Abducted

最後の「誘拐」の一文字やUFOからの襲撃から逃げるLUVの声が挿入されている本曲のOutroでは、LUVがUFOに誘拐されことが分かる。

6.『HomeComing』

[Outro]
Wait, what the fu—
Why am I strapped in?
Wait, I just gotta hit this button, I’m—
I’m out

UFOの船内で囚われているLUVが、囚われの身から自力で解放することができたこと様子が読み取れる。

8.『Celebration Station』

[Outro]
Hello? Hello? Where am I?
I ain’t never seen nothing like this, the fuck is all this?
Hello? Yo?

自力で解放することができたLUVだが、自分がどこにいるかも分からず、今まで見たこともない光景が広がっているからか、なりふり構わず声を出して助けを求めている様子が読み取れる。

11.『Bust Me』

[Outro]
What the fuck? Wait, what?
Wait, what?
Yo? Yo?
Where are they going? Wait
Wait, so
You gotta hit that button right there
(You are now leaving EA, the dark world)

UFO船内を歩き回るLUVは操縦室まできたのだろうか。「彼らはどこに向かっているのか?」とあるが、おそらく彼らとはUFO船内の生命体のことでだろう。

ここで注目したいのが、ショートムービーの冒頭の紫色の女性が歌っているシーンである。本曲のOutroでも同じ女性の歌声が聞こえる。LUVは咄嗟に目の前のボタンを押すが、そのボタンはEternal Atakeから脱出するボタンであった。ボタンを押すと同時に「Eternal Atakeから離脱します、闇の世界へ」と音声が流れ、LUVはEtenal Atakeから脱出することになる。ここでの“ 闇の世界 ”とは地球のことで、前述したようにHeaven’s Gateでは地球がいずれ終わりを迎えると信じているため、闇の世界と比喩しているのである。

15.『Secure the Bag』

[Outro]
Lil Uzi, Lil Uzi, Lil Uzi
Let’s get it, let’s get it, let’s get it
Let’s get it, let’s get it, let’s get it
Count all my guap I’m gettin’
Oh, I’m gettin’ a lil’ headache
Wait, where’s my phone?
Hello? Bro, I just saw a three, I never saw nothin’ like this
I never saw anything in my whole entire life like this
I don’t know what they were, bro, no, no, no, no, no, no, no, no
I was right here lookin’ through the glass
I don’t know, bro, I’m trying to figure it out, nothing’s making sense
Bro, I gotta drop this album, all this bro

地球に戻ったLUVは突如頭痛に襲われる。Eternal Atakeを脱出する前に電話が鳴っていたことを思い出し(『Emergency』のOutroで電話の着信音が挿入されている)、携帯を探し始める。電話を掛け直し、電話の相手にUFOに誘拐された一連の経緯を話すが、一切聞いてくれず、信じてもらえない。彼は状況を理解できず拉致が開かないため、今まで自分が経験した全てのストーリーをアルバムにして伝える、と誓うのであった。

さて、ここまで読んだ読者ならもうお気づきではないだろうか。
本アルバムを通して語られている裏ストーリーは時系列的に言うと「ショートムービーよりも前のストーリー」であるのだ。

UFOに誘拐されEtenal Atakeに輸送されたLUVは何とか地球へ帰還したものの、その話を誰にも信じてもらえないため、一連の経緯を本アルバムにして伝えることを決める。それ以降LUVは自分自身が地球の人間ではないと信じるようになる(『Venetia』のIntroで”And I’m not from earth, I’m from outer space And I’m different , I’m wavy(自分は地球ではない外の世界から来た、他とは違う)”と歌っている)が、そんな中紫色の衣装を身に纏った女性の歌声と共にHeaven’s Gateが開き、LUVは本能的にUFOの元へ向かい地球から脱出しようとするのである。UFOが爆発した後の回想シーンで、LUVが紙にUFOのような黒い円形のような絵を書いているのも、過去にUFOに誘拐されたことによって、その経験が頭から消えていない(UFOに誘拐されたことは事実であった)ことを表している。

ここからは筆者の推測であるが、ショートムービーの中でUFOの爆発に巻き込まれたLUVと女性二人は死を遂げたと考えられる。その理由として、Heaven’s Gateでは死=「結末」からの救済方法であったこと、またその後のシーンで、LUVが生まれ変わったかのように(魂をネクストレベルの人間に輸送したかのように)描かれていることが挙げられる。LUVは死という手段で、地球上の肉体から魂を救済しEternal Atakeのリーダー(Baby Pluto)になることで、地球の人々を「結末」から救済しようとしていると考えられる。

ショートムービーが公開された後の以下のLUV本人のツイートの内容からも、上記ストーリーの筋が通ることが分かる。

「紫色の衣装の女性が青色の衣装を着ることを決心した場合、彼らは愛と再生を探している。
つまり、彼らはあなたの魂を奪い、あなたはあなたの自身にとって最も素晴らしい年齢で止まることができる。しかし、時間が経つにつれ、あなたが愛するすべてのものとすべての人は死ぬか消える。」

“ the Ladies in purple ”とは、ヘブンスゲートのメンバーが集団自殺をした際に紫色の布を身に纏っていたことから、既に死を遂げ救済された人々であり、実質は人間という肉体から救済された魂のことを指していると考えられる。“ Decides to wear Blue ”とは、そんな魂が地球上の肉体に戻ることを決めるという意味であろう。

一度肉体から救済された魂が、愛と再生を求めて(人を愛することは肉体がないと不可能である)、地球上の肉体に戻るとき「その肉体の魂を奪うことで永遠の命を手に入れることができる」という意味であると考察できる。また後半部分では、魂は歳をとらないので、自分が愛した人や物は必ずいつか死ぬということが語られている。

本稿は『Etenal Atake』のアルバムカバーアートにどのようなストーリー、コンテクストが込められているのかにフォーカスした上で、LUVのどのような想いやメッセージが込められているのかを考察してきた。ショートムービーや歌詞の内容を踏まえた上で、改めて本作のアルバムカバーアートは、「Eternal Atakeという架空の宗教カルトのリーダー(Baby Pluto)になったLUVが地球上の人々を救済すべく、惑星間輸送UFOに乗って地球に向かっているシーン」であると考えられる。

2017年の『Luv Is Rage 2』から本作がリリースされるまでの期間、LUVは様々な紆余曲折を経て、決して楽とは言えない期間を過ごしてきた。そんな過酷な(Generation Nowからアルバム『Eternal Atake』をリリースしないよう束縛されていた)期間をUFOに誘拐されるストーリーで比喩し、またそのような経験を経た現在の自分が別人(ネクストレベル)になっているというコンテキストを本作『Eternal Atake』を通じて、地球上のファンに伝えたかったのではないだろうか。その想いはアルバム・タイトルである『Eternar Atake』- 直訳で「永遠の勝利」にもまさにリンクしてくるだろう。

そんな生まれ変わったLUVの最新作『Eternal Atake』をまだ未聴の方は、是非一聴いただきたい。

Writer:平川 拓海
Twitter:_takumihirakawa
Instagram:_takumihirakawa

学生時代に始めたストリートダンスやクラブでのバイトを通して、音楽を中心としたストリートカルチャーに触れる。在学中に『TALENTED_TENTH 〜ラップ・ミュージックは何を伝えたのか〜』を執筆。現在はサラリーマンをする傍ら、音楽ライター/音楽キュレーター/DJとして活動中。クラブで踊る時間が一番の幸せ。

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