ALBUM COVER

Find My Way - DaBaby
ダ・ベイビーが描く「愛する人を守る覚悟」

APRIL 16 2020

Written by 平川 拓海

Edited by SUBLYRICS

XXL Freshman Class 2019(※1)にも選出され、2020年に開催された62nd Annual Grammy Awardsでは、自身の楽曲『Suge』が2つの部門でノミネートされる等、2020年最も活躍が期待されるアメリカ合衆国オハイオ州出身のラッパーと言えば、DaBaby(ダ・ベイビー)だ。
(※1:XXL誌が毎年ヒット中ないしはヒットすると予想したアップカミングの若手アーティストをセレクトし、世に発信する恒例の企画のこと。)

そんな彼の最新シングル『Find My Way』が日本時間4/1(水)にリリースされた。

Marshmello & Anne-Marieの『FRIENDS』のギターループを大胆にサンプリングしたメロディックなトラックが特徴的な本作だが、筆者が特筆したいのが、アルバムカバーアートである。というのも、DaBabyのこれまでの作品と言えば、“ Baby(赤ちゃん)”をモチーフにしたユーモア溢れるアルバム名、そしてカバーアートが特徴的だったからである。

ミックステープ『Baby Talk』シリーズや自身のアルバム『Billion Dollar Baby』『Back On My Baby Jesus Shit』 『Blank Blank』『Baby on Baby』のタイトル名やカバーアートをはじめ、赤ちゃんネタを徹底していることが伺える。

2017年の*SXSWでは、オムツ姿でライブパフォーマンスをし、一貫した世界観でラッパーとしてのキャリアを築いている。BreakfastClubのインタビューでは、オムツ姿でパフォーマンスした理由を「あれは単にBaby Jesusを体現したわけではなく、Genius Markting Schemeだ」と答えており、一連の赤ちゃんネタが巧みなマーケティング戦略の一部であったことを公表している。

(※South by Southwestは、毎年3月にアメリカ合衆国テキサス州オースティンで実施される、音楽・映画・インタラクティブ・コメディの4つの部門のフェスティバルが融合した大規模イベント(見本市)。スタートアップ企業の登竜門としても知られる。)

上記を踏まえると、今作『Find My Way』のカバーアートがいかに今までの作品と異なるかが理解できるだろう。今回もアルバムカバーアートにフォーカスして、アーティストの想い・メッセージを考えていきたい。

前述の通り、今までの赤ちゃんネタを徹底したユーモアを感じさせるカバーアートとは打って変わり、どこか真剣に遠くを見つめる彼の表情や彼を抱き抱える女性の姿はロマンティックかつシリアスな雰囲気を漂わせ、何かのストーリーを示唆させる。

本作のストーリーを読み解くにあたりキーとなるのが、リリース翌日にYouTubeで公開された10分を超えるMVである。既にご覧になった方はお気づきであるかもしれないが、本MVの見所はなんと言ってもそのハリウッド映画並みのクオリティだ。

制作を担当したのは、DaBaby専属の3人組クリエイティブチームReal Goats。『Suge』や『Baby Sitter』のMVも手掛ける等、彼のビジュアル面でのストーリーテリングをサポートしている。

冒頭車内でDaBabyが祖母に電話するシーンから始まるMV。彼が電話をする間ガールフレンドらしき女性は何かを急かすように彼を待っている。“ Love You ”とメッセージを残し電話を終えたDaBabyは、突如覆面を被り銃を片手に車を降り、その銃声と共にイントロが始まるのであった。

GENIUS によると、MVは1930年代にアメリカ中西部で強盗や殺人を繰り返した犯罪者カップルBonnie & Clyde がモチーフになっているとのこと。冒頭のシーンも強盗に押し入る直前のシーンであると考えられるが、ここで注目すべきポイントはイントロが流れる前のDaBaby の“ Have you ever seen somebody turn into a monster for a good cause?(あなたは正当な理由で怪物になる人を見たことがありますか?)”というセリフ。MVではDaBaby が経済的に苦しむ家族(祖母)を助けるために犯罪を犯している姿が描かれており、これが本作のテーマとも言える。(Bonnie & Clydeは、音楽シーンに多大な影響を与えている。例えばEminemの『97’ Bonnie & Clyde』やBeyonceの『03’ Bonnie and Clyde』などの楽曲も二人をモチーフにしている。)

ここで同曲の歌詞にも触れていこう。

[Chorus]

I keep it loaded when I ride ’cause I’m still a nigga
車に乗る時は弾を込めてる 俺は男だから

I fuck with her to ease my mind, ‘cause I be in my feelings
心を楽にするために彼女とヤってる そんな気分だから

And every single person in my life tell me I’m their hero
俺の周りの人は皆、俺のことをヒーローって呼ぶんだ

But when it’s up and then go down, they treat me like the villain
でも勢いがなくなると悪者扱いをするのさ

Guess I forgot to mention
言い忘れていたことがある

I’m just a nigga with a broken heart tryna find my way back home
俺も心に傷を負った一人の男なんだ 家への帰り道(自分の生き方)を探しているところさ

And I’m sittin’ here with the car in park while she ride dick to my song
そして俺は駐車場に車を止めて座っている 彼女は俺の曲に合わせて腰を振っている

Bonnie & Clydeの実話から生まれたスラングに“ Ride or Die(=あなたのためだったら何でもする)”という言葉があるが、本作はそんな誰かへの忠誠心がテーマとなっていることがMVや歌詞を通して読み取ることができる。そして言うまでもないが、その“ あなた ”とは、愛する彼女や家族のことである。冒頭の祖母に電話するシーンからも家族を想うDaBabyの姿が描かれている。

注目したいのが、自身を“ 心に傷を負った一人の男 ”と表していること。なぜ自身のことをこのように表現しているのだろうか。この部分については、銃射殺事件に巻き込まれたDaBaby自身の実体験を通した彼の心情が現われていると推測できる。

Complex によると2018年11月5日ノースカロライナ州ハンターズヴィルの大手チェーンスーパーWalmartでその事件は起こった。家族と買い物中だった DaBaby の元に、突如19歳の黒人青年が銃をむけて襲い、妻を誘拐しようとしたのである。DaBabyは本能的に家族を守るために、持っていた銃で青年を射殺してしまった。事故後の裁判では、彼は自己防衛を主張し、起訴も取り下げられたが、結果的に銃を隠し持っていた罪で一年の執行猶予処分を判決されている。

愛する家族を守るためとは言えど、自らの手で青年一人を射殺してしまったことによって、一種の罪悪感や葛藤を抱えることになり、結果的に心に傷を負うこといなったのではないだろうか。

[Verse 1]

And every day I pray to God that a nigga don’t try to play, though
毎日神に祈っている みんなが遊ばない(人殺しや強盗などをしない)ように

‘Cause I don’t like to play, be done gave a nigga a halo (Boom, boom, boom)
俺はそんなことで遊ぶのは好きじゃないからな みんなには神の御加護を
(haloは聖像などの頭部を囲む後光,光輪と言う意味があるが、 人気テレビゲームhaloのことかもしれない)

Thinkin’ ‘bout the people I lost, know I got some angels
失ったやつのことを考えるんだ 俺には天使が宿っている

Chillin’ with my freak, when we fuckin’, it ease my anger
俺のファンとチルしているヤってる時 それが俺の怒りを楽にするのさ

これより前部分の歌詞で“ You know how people like to come back when you level up (Uh-huh) I made a change, you stayed the same, I got ahead of ya”とあることから、彼が(ラップで)成功してから、地元に帰った際の話であると読み取れる。“ my anger ”とは、地元の人々が殺人や強盗等を起こさなければいけない状況への怒りのことであろう。上記の殺傷事件を経て、より一層怒りの想いが大きくなったのだと思われる。

(Rolling Stones)

[Verse 2]

My name not Melly, I got murder on my mind again (Uh-huh)
俺はMelly(YNW Melly)じゃない また頭の中で殺しのことを考えたよ
(YNW Mellyの楽曲『Murder On My Mind』から引用)

I’m with the shits, I’d kill him twice if he could die again
俺はクソ野郎だ あいつがもう一度死ぬ機会があればもう一度殺すだろう

And if he think ‘bout tryin’ me, he better try again
あいつがもう一度俺に挑んでくるのであれば 是非もう一度挑んだ方が良い(=迷わずもう一度殺せる自身がある)

Verse 2ではYNW Mellyの楽曲『Murder On My Mind』の歌詞を引用している。Mellyと言えば、自身のクルーYNW(Young Nigga World)の仲間2人を殺害した容疑で服役中であり、この楽曲も殺害をほのめかすような歌詞であることから話題になった印象が強い。個人的には、服役中の刑務所で新型コロナウイルスに感染したらしく、そちらの方も心配である

DaBabyからすれば、実際の殺人を犯したであろうMellyと違い、俺はあくまで家族を守ると言う正しい理由があったんだ、と言うことを伝えたいのであろう。とはいえど、彼の犯人への怒りは絶えない。上述の歌詞に続く言葉からも犯人に対する憤りが相変わらず読み取れる。

DaBabyの愛する人への“ 忠誠心 ”、またそれを奪おうとするものへの“ 怒り ”。皆さんにとってもこの感情はお分かりになるだろう。本曲はそんな正しい理由のために人を過ちを犯してしまったことへの罪悪感や葛藤、彼自身の精神的なストレスや怒りがMVや歌詞を通して描かれている。

MVのラストシーンでの“ Some times when you try to do the right thing, we end up doing more wrong(たまに人は正しいことをしようとする時、結局より間違ったことをしてしまう)”と言う彼のセリフが全てを物語っている。

愛する家族を守るため幼い青年を射殺してしまったDaBabyは、その行動が正しいこととは理解しているものの、その行動が間違っていた、少なくとも他に方法があったのではないかと自分自身の中で問い続けているのであろう。そして、その心情はMVの中で愛する家族と彼女のために強盗や殺人を続ける主人公の姿を通して描かれているのではないだろうか。

カバーアートはそんな善悪の矛盾について葛藤しているDaBabyを描写したのである。そして、後戻りできない道を選んだが故にその道を生きる事を決心した想いが本作のタイトル“ Find My Way ”という言葉に現われているのではないだろうか(もしくは生きる道を模索している)

ハードなバスドラムサウンドが詰め込まれたアトランタサウンドだけではなく、メロディックな曲調のトラックでもラップできる多才さを披露する事となったDaBaby。何よりも本作で明らかになった彼の演技力は、今後ラッパーの域を超えたフィールドでの活躍を大いに期待させてくれるものとなった。

明日には新プロジェクト『BLAME IT ON BABY』のリリースも控えているDaBaby。今作が新作に収録されるかどうかは未定だが、今後の動きから目が離せない。

Writer:平川 拓海
Twitter:_takumihirakawa
Instagram:_takumihirakawa

学生時代に始めたストリートダンスやクラブでのバイトを通して、音楽を中心としたストリートカルチャーに触れる。在学中に『TALENTED_TENTH 〜ラップ・ミュージックは何を伝えたのか〜』を執筆。現在はサラリーマンをする傍ら、音楽ライター/音楽キュレーター/DJとして活動中。クラブで踊る時間が一番の幸せ。

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