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Good Days - SZA | ベビーフォトの意味 - リル・ウェイン「Tha Carter Ⅲ」を手がかりに

March 18, 2020

昨年末、アメリカのミズーリ州セントルイス出身のシンガーSZA(シザ)は、世界的な未曾有の事態によって疲れ切った2020年の終わりにリスナーに極上のクリスマスプレゼントを用意した。

歪んだ男女の関係を歌った「Hit Diffrrent」のMVでの壮大なスニペットで明るみとなった本曲「Good Days」。グラミー賞にノミネートした過去作『Ctrl』同様、デビュー前まで化粧品会社で働いていたというキャリアからは想像できないその圧倒的な歌声とメロディックなサウンドでまたもやリスナーを惹きつけたが、何といっても本作で特筆すべきなのはそのカバーアートだ。どこかノスタルジックな景色を背景に、ミッキーマウスのスウェットを着た幼少期のSZAの頭にはタイトルの文字をあしらったタトゥーが彫られており、右目にも涙の形をしたタトゥーが伺える。これらを見てリル・ウェインの『Tha Carter Ⅲ』を思い浮かべたのは私だけではないはずだ。

本稿では、リル・ウェイン『Tha Carter Ⅲ』を手がかりに、SZAの最新作「Good Days」のカバーアートに秘められた想いやメッセージを紐解いていきたい。

Cover Artwork

リル・ウェイン「Tha Carter Ⅲ」を手がかりに

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2008年にリリースされたカーターシリーズの最高傑作『Tha Carter Ⅲ』は、先行シングル「Lollipop」が全米総合シングルチャートであるビルボードホット100で1位を獲得し、2009年の第51回グラミー賞では4部門で受賞した。11歳でデビューした自称火星人ラッパーは2000年代半ばからミックステープを量産し勝ち得ていたアンダーグラウンドでの成功を、この傑作によってメインストリームへ押し上げた。

「俺はミリオネア、ヤング・マニー・レコードのミリオネア」「毎秒、毎分、毎時間は金のため/それとチョッパー(アサルトライフル)のため」と金や銃、ドラッグについて歌った「A Milli」や100%コンプラ違反なリリックの「Lollipop」といったように、一見本作は富や名声、権力、セックスなどについて歌ったギャングスタラップの王道を行くような内容となっているように見えるが、それらの楽曲とは裏腹にいくつかの楽曲ではリル・ウェインの為人やユーモラスさが垣間見れるリリックが登場する。

例えばカニエ・ウエストがプロデュースした「Comfortable」では、「でも俺は君に楽しんで欲しいんだ/俺は君をスフレを料理するように丁寧に扱ってるだろ?/毎日フレッシュな気持ちで君を見つめてるだろ?/俺はきちんと言ったことはやってるだろ?」「だから今、出て行かないでくれよ、なぁ」「愛に囲まれて、日々を生きて、乗り超えて、進歩してく」とそのビジュアルからは想像できぬ、付き合って初々しいカップルの女々しいやり取り、あるいは極めて紳士的なリリックが読み取れる。

「Tie My Hands」では、ハリケーンカトリーナの際に甚大な被害を被った、アフリカン・アメリカンが多く住んでいたニューオリンズ地区に対し人員を送らないと発言した当時のブッシュ大統領に対する批判を歌っており、セルフ・ボースティングが多く見られる他の楽曲とは異なり、一人の人間として、またアメリカ国民としての純粋な意見をぶつけている。

2歳で父親に捨てられ、母親が継父からの暴力で苦しんでいる姿を見てきたウェイン。「Love Me or Hate Me」はそんな自身の過去を反面教師にした、子想う親心溢れる楽曲だ。「父さん、今日が最期の日?/もしそうなったとしても金は残してやる/そして俺は知っている/俺はギブスのごとく堅牢だ/俺の未来は過去より良いだろう」と子供が自身の二の前にならぬよう十分な資金を蓄えておくことを誓っている。インタビューによると、彼は地元ニューオリンズの子供たちにスケートボードを配り、彼らが銃やドラッグに手を出さないように社内貢献をしているそう。彼は子供たちの未来に目を向けているのだ。

また一方で「ドラム、剥き出しの銃声のような音、親指で挿弾子を替える/そして俺は次の挿弾子で自分に向かって撃った/俺は俺の親友であり、俺の最大の敵だから/俺は鏡を狙っているんだ」と、彼が12歳の時に自宅にあった母親の銃で誤って自身の胸部を撃ち、自殺未遂を図ったことをユーモラスな言葉使いで歌う「Shoot Me Down」の歌詞に目を向けると、自身の過去のパーソナルな体験も歌っていることが分かる。

子供というのは最も好奇心に溢れか弱い存在であり、純粋無垢な存在だ。見た目はタトゥーまみれでジュエリーを身に纏っていても、自身の過去、現在、未来の出来事に真摯にかつ素直に向き合う彼の姿が伝わってくるのが本作の魅力だ。今思えば「Lollopop」の歌詞に見られる強烈なほど下品で安易なダブル・ミーニングも彼の純粋無垢の表れと捉えることもできる。もちろん、自身のパーソナルな物語をユーモラスに歌っているという意味で、それをカバーアートを通してビジュアルで伝えているという側面もあるのは確かだろう。ただそれ以上に、タトゥーやジュエリー、様々な喜びと痛みを経験してきた表情、ラップゲームの頂点に視線を向ける子供の姿で自身の過去、現在、未来を端的に表現している、という点でこれ以上相応しいカバーアートはないのではないだろうか。

過去と現在、後悔と自己愛

「あなたが私のものじゃないとしても、最初からあなたに夢中だった/よく思われないんじゃないかって怖くて、限度額を超えてしまったりしたわ」ダメ男に貢いでしまう典型的な女性像を歌ったリリックとは裏腹に、「Hit Different」のMVではその自信に満ち溢れた迫力あるダンスで自身の想いをビジュアルを通して表現した。ザ・ネプチューンズのプロデュースのもと、客演にタイ・ダラー・サインを迎えたそんな前作に引き続き、今作でも彼女は自身が普段から考えていること、ただ心に響く曲をリリックに落とし込んだという。

「Hit Different」で歌った過去の後悔を乗り越えようと奮闘する本作。「安らぎが必要、ただただ寂しいの」「最高な私を無駄使いしてしまったか心配になってきたわ/あなたはそんなこと気にしないだろうけど」といったリリックからもその様子が伺えるが、「おもしを取り除くわ、束縛されたままはもう耐えられないの」とその歪んだ関係によって自分が窮屈になっていることに気づいた彼女は、一歩を踏み出そうと決心するのである。

ジェイコブ・コリアーの甘美なレイヤードボーカルが奏でるコーラスでは「その間ずっと、笑顔で満ち溢れた誰にも邪魔されない運命を待っているわ」と自分の未来は誰にも邪魔されないものであることを歌っている。「Good Days(晴れやかな)」心になれるかどうかは現在の自分次第なのだ。

「半数の人は若さを無駄にしているわ、それは今なのに」「半数の人は溢れ出る若さの源を追い求めているわ、今ここにあるというのに」このような歌詞からも、いかに過去ではなく現在にフォーカスすることが大切であるかを歌っており、ブレックファーストクラブのインタビューにおいても以下のように語っている。「未来をコントロールすることは不可能だわ。それはコントロールするものではなくて、概念、言葉、幻想なの。でも、今の考え方や気持ち、今何をするかにフォーカスすれば、未来をコントロールすることができると思うわ。」

今という時間軸での純粋無垢な素の自分は、まさにリル・ウェイン「Tha Carter Ⅲ」と同様カバーアートに現れている。そしてその視線はまさしく自身の揺るがない未来の運命をただ待っているのである。いつだって「Good Days(晴れやかな心)」は今の自分の中の眠っている。だからこそ、過去の後悔に囚われている人や未来を追い求めすぎて今を大事にしない人に向けて「今現在の自分こそを愛するべきだ」と伝えようとしているのではないだろうか。そんな汚れのない純粋無垢な自分こそが「Good Days(晴れやかな心)」のために大切なのである。

おわりに

「2020年は間違いなく私の創造力と全ての見方に影響を与えた。私自身リストラクチャを余儀なくさせられたの。次の作品は世界を変えることができる。」と自信満々に語るSZA。カバーアートの彼女が見つめる先の未来は、今年リリースを予定している新アルバムの中で語られることになるのだろう。

<参考>

・SZA’s Moved On to Bigger, Better Things Since That Grammys Snub (and You Should Too)
https://www.cosmopolitan.com/
entertainment/celebs/a34935658/
sza-cosmopolitan-cover-february-2021-new-album/

・【和訳】Comfortable (Feat. Babyface) – Lil Wayne | SUBLYRICS
https://sublyrics.info/comfortable-lil-wayne/

・Interview Lil Wayne Katie Couric 2013 (September 9th)
https://www.youtube.com/watch?v=VX0Cz5PHNhA

・What’s Up With All Those Baby Photos on Rap Album Covers?
https://djbooth.net/features/2019-05-22-baby-photos-rap-album-covers

・SZA Talks About Her New Album, Ex-Boyfriends, Sidechicks & More
https://www.youtube.com/watch?v=LwOIBNYIiBI&t=3163s

・各楽曲のGenius

Credit

Writer : 平川拓海

学生時代に始めたストリートダンスやクラブでのバイトを通して、音楽を中心としたストリートカルチャーに触れる。在学中に『TALENTED_TENTH 〜ラップ・ミュージックは何を伝えたのか〜』を執筆。現在はサラリーマンをする傍ら、音楽ライター/音楽キュレーター/DJとして活動中。クラブで踊る時間が一番の幸せ。(IG : @_takumihirakawa )(TW : @_takumihirakawa

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