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ALBUM COVER

It Was Good Until It Wasn’t - Kehlani
ケラーニが見つめる先にあるものとは

May 28, 2020

1995年生まれ、アメリカ西部カリフォルニア州オークランド出身のR&BシンガーのKehlani(ケラーニ)が待望のアルバム『It Was Good Until It Wasn’t』をリリースした。

Jhene Aiko、Lucky Daye、James Blake、Tory Lanez、Masegoなどの多くのアーティストが参加した本作は、『While We Wait』に継ぐ4作目のアルバム。5/23(土)にはビルボードR&Bソングライターチャートで1位を叩き出し、改めて彼女が2020年のR&Bシーンを語る上で欠かせない存在であることがお分かりいただけると思う。

Kehlaniと言えば、今年のバレンタインデーの直後にリリースされたシングル曲「Valentine’s Day (Shameful)」のリリースで公表された元彼YGとの破局や自身の出産、 Lexii Alijai、Mac Miller、Chynnaら友人アーティストの死など、ここ数ヶ月で彼女を取り巻く環境や人間関係、心情に大きな変化があったことは、読者の方であれば既にご存知であろう。

そのような中でも音楽制作を継続していた彼女だが、さらに追い討ちをかけたのが昨今のコロナ禍である。コロナ禍の影響でレーベルは彼女に対し、アルバムのリリースを遅らせるよう指示した。それを受けた彼女は、予定通りリリースをすべく、自分一人でプロモーション活動を実施することに決めたのだ。

自宅があるカルフォルニア州では外出制限が発令されていたため、彼女は専属カメラマンのBri Alysseを自宅に招き、二人きりでカバーアートやMVなどの制作に取り掛かった。インタビューの中で二人は以下のように語っている。

「私たちは一緒に座って、新しいカバーアートはどのようなものにしようか案を出し合ったわ。私たちは今までとは全く違った新しいものを作ろうと計画していたからね。私たちの現在の自粛期間が意味するところをカバーアートを通して表すべきと考えたの。」

「現在の自粛期間」が意味するところとは何なのだろうか。インタビューと歌詞の内容をもとに、本作のカバーアートに秘められたアーティストの想いやメッセージを考察していきたい。

Pitchfork:アートワークとアルバムのストーリーである「愛」や「つきあい」はどのように関係している?

Kehlani:アートワークは私の内面を表しているの。アートワークの裏庭で表している「破壊」は、私の人生や私の頭の中、精神の中を表しているの。
それは、過去のロマンチックなシチュエーションや、私の背後にある全てがクレイジーになっていくことや、私の目の前がクレイジーになること、というアルバムのストーリーを表している。私はそのような混乱の中で、逃げるべきかその場に居座る(向き合う)べきか考えているの。これが私の考えてること。みんなは何を見ているのかしら。

Pitchfork:アートワークの中のヴィジュアルが象徴するもので好きな部分はどこですか?

Kehlani:ホースが好きだわ。私の後ろで燃え広がる炎はとても、とても大きいのに、私はたった小さいホースしか持ってないの。私にとってそれらの描写は、私が一番良くない状況にいて、そこから出ようとしていた時期を表しているんだけど、結局全ての物事から逃げることしかできなかった、ということを表しているの。

Pitchfork:カバーアートでは、あなたが見ている光景はわかりませんが、目の前のことを知る(に向き合う)ことの意味とは何でしょうか?

Kehlani:それはもちろん希望的なこともあるけど、ショックな要因があったり、得体の知れないものへの恐怖もあるわ。私は牡牛座なんだけど、私たちの最大の苦労の一つとして、表面的なレベルでしか他人に心を開かないことがあるわ。

だからもし私たちはお互い深い関係になって、深い部分まで心を開くようになった時、それが嫌になるとすぐ止めてしまうの。もう一回深く踏み込もうなんて思わないもの。これはとても(恋愛や人とのつきあいにとって)大きいことだわ。だからこれは希望的であり、難しいものなの。(カバーアートで)今私の前で起こっていることはとても苦しいことだと理解しているし、それが心地よくないことも知っている。でも、それは今まで私の後ろで起きていたことほどのものではないの。

彼女の最後の一言、「でも、それは今まで私の後ろで起きていたことほどのものではないの。」とあるが、これは今までの恋人との破局や友人の死に比べたら、今目の前で起きていること(コロナ禍やそれによる自身への影響)は大したことではないと解釈でき、彼女が物事の悪い側面に正面から向き合おうとする姿を表現しているのではないだろうか。今、悪い側面に正面から向き合っているからこそ、その絶望や恐怖を感じ涙を流していることや、コロナ禍の最中でも自宅でクリエイティブに挑んでいることも筋が通っている。

ただ一方で、悪い時期にいた過去の彼女は、全ての物事から逃げること(=物事の悪い側面は見て見ぬふりをすること)しかできなかった。そういう意味でも、悪い側面に正面から向き合った今の彼女からすれば、タイトルを「It Was Good Until It Wasn’t 」に決めた理由も納得できるのではないだろうか。(このフレーズはDrakeとの会話の中で出たフレーズで、Drakeからの助言でタイトルに決めたとのこと。)

「男性の象徴は常に問題が多い、いつも私はそれにはまる」とYGとの愛を毒と歌った「Toxic」やショービジネスで生計を立てる恋人どおしが直面するユニークな誘惑との格闘を歌った「Open (Passionate)」、過去の恋人に対する後悔や悲しみ、救済を官能的に歌った「Grieving」等、本作に収録されている曲は全て過去の自分の経験からきており、その経験を通して学んだ物事の「善」と「悪」の二面性、またそのような物事の見方をテーマにしている。

さらに言えば、恋人との破局や友人の死などの痛みを埋葬した(今まで見て見ぬふりをしてきた物事の悪い側面に正面から向き合った今の自分への一種のオマージュを表すとともに、自分に自信を持つことの大切さを伝えたかったのではないだろうか。

ラストの収録曲であり、Lexii Alijaiの追悼曲でもある「Lexii’s Outro」にこんな歌詞がある。

Misery love company, don’t ever let these niggas keep you down
人は悲惨な状況になると仲間が欲しくなるものよ、でも彼らに押し潰されちゃだめなの

Matter fact, don’t let ‘em see you down
実際、そんな彼らに失望させられてはダメ

‘Cause if they see you down, they gon’ try to get up
もし彼らがあなたを見下す時、彼らは誘ってこようとするから

They gon’ know that you stuck, exactly what they want
彼らはあなたが立ち往生していることを知っている、それはまさしく彼らが欲するものなの

So even if you fuckin’ up, you gotta put on that front
だからあなたがもし最悪な状況に陥っても、それに対して正面から向き合って

You gotta act like you’re on top, even if your shit sunk
そしてトップにいるかのように振舞うの、たとえそれがどんなにクソでもね

I know this what you want
これがあなたの求めていることよ

Lexiiの生前、デビューアルバム『You Should Be Here』の収録曲「Jealous」でコラボレーションする等、深い友好関係を築いていた二人。Lexiiのことを「私にとってのスターだった。彼女の話す全てが真実だったから。」と語るKehlaniは「悪い時こそ正面から向き合って、自分に自信を持つべきだ」と言う彼女の言葉をまさしく信じている、リスナーへ伝えようとしていることが読み取れる。

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i’m so sick. i’m so angry. i’m confused and my heart is broken. i don’t know why this happened. i don’t know what you’ve ever done but be brilliant, kind, strong, gentle, compassionate… my lil fuckin baby dawg. you got my heart on the floor right now lex. you were such a star to me because every word you spoke was true. every word you wrote was honest. you asked questions with wide eyes, you laughed and covered your mouth cuz you was always so shy even tho everyone who ever seen you said you was so damn gorgeous. fuck imma miss you. u was such a thug bro i seen u go thru it ALL!!!! and then TELL THE STORIES SO BEAUTIFULLY! you was supposed to go take over the world lex. you was supposed take home the trophies and hang the plaques up. i won’t forget the late night drives or the hotel nights i won’t forget u playing in my makeup i won’t forget a thing. why it had to be like this. i love you sis. so much. huggin yo family.

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自宅で4本のMVを撮影し自身でプロモーション活動を実施したり、自身のメイクアップ動画を投稿したりと、自粛期間中もクリエイティブな活動を止まないKehlani。そんな彼女が言う自粛期間が意味するところとは、今の自分に真正面から向き合うことなのではないだろうか。

自粛期間中にリリースされた本作はインタビューの内容通り、サウンドも歌詞も今までのアップテンポでポップなイメージとは全く違った、より官能的で洗練された母親としての彼女の想いやストーリーが滲み渡るR&Bアルバムに仕上がっている。是非ご一聴いただきたい。

Credit

Writer : 平川 拓海

学生時代に始めたストリートダンスやクラブでのバイトを通して、音楽を中心としたストリートカルチャーに触れる。在学中に『TALENTED_TENTH 〜ラップ・ミュージックは何を伝えたのか〜』を執筆。現在はサラリーマンをする傍ら、音楽ライター/音楽キュレーター/DJとして活動中。クラブで踊る時間が一番の幸せ。@_takumihirakawa

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