本稿では、読者の皆さんであれば聴いたことない方はいないであろうコンシャスラップの金字塔、Kendrick Lamar(以下Lamar)の3rdスタジオアルバム『To Pimp A Butterfly』のアルバムカバーアートに秘められた想いやメッセージを紐解いていきたい。
さて、早速だがカバーアートを見ていきたい。
Lamar 本人と当時の TDE の CEO である Dave Free のディレクションの元、写真家 Denis Rouvre によって撮影されたビンテージポラロイド風のモノクローム調の本カバーアート。 Mass Appeal に本カバーアートに関する本人インタビュー動画があるので、歌詞の内容をヒントに内容を紐解いていきたい。
But somethin’ came over you once I took you to them fuckin’ BET Awards かつて俺は彼ら(フッドの仲間達)を BET Awards に連れてって言ったことがあるんだ
You lookin’ at artistses like they’re harvestses お前らはアーティスト達を農作物みたいに見てやがる
So many Rollies around you and you want all of them お前らの周りのたくさんのロールスロイス お前らはそれらを全部欲しがる
Somebody told me you thinkin’ ‘bout snatchin’ jewelry 誰かが俺に教えてくれたんだ お前らがジュエリーを盗もうとしてるってな
I should’ve listened when my grandmama said to me ばあちゃんが言ったことをよく聞いておけばよかった
Shit don’t change until you get up and wash yo’ ass, nigga 立ち上がってケツを拭かなきゃ、物事は変わらないんだよ
彼がフッドの仲間達を BET Awards に連れて行った際のことが描写されているが、彼の仲間は授賞式に参列した華やかな人々の金品や高級車を見て、それらを盗みたいという衝動に駆られるのである。
後半部分で Snoop Dogg が「You can take your boy out the hood But you can’t take the hood out the homie」と歌うように、彼らをフッドから物理的に連れ出すことはできても、彼らからフッド(貧困によってまともな教育制度が整わないフッドで育ったが故に身についた行動基準)を取り除くことはできない、ということを歌っているのである。「制度化された」というタイトルが表すように、 Lamar 自身ひいては黒人コミュニティでは、フッドで育ったが故にそのステレオタイプ的な考え方や行動基準が染み付いてしまっており、それはアメリカ社会の中で制度化されているのである。
その理由として、「The Blacker the Berry」の中で彼が「Black-on-black crime(黒人間抗争の犯罪)」への問題提起をしていることが挙げられる。「ケンドリック・ラマー“ The Blacker the Berry ”が私たちに教えてくれること(https://sublyrics.info/column-200130-1/)」の記事にもある通り、彼は社会の変革は集会や略奪ではなく内側から始まるものだ、と語っており、そうした中で被害者ヅラした自分はまさに偽善者であると歌っているのである。
続いて注目したいのが、インタビュー中の「全ての黒人はスターだ」というフレーズである。これは「Wesley’s Theory」の歌詞にもあり、フレーズ自体は Boris Gardiner が1973年にリリースした「Every Nigger is a Star」からのサンプリングである。
まず、右手下部に両手を上げている少年の右手にモザイクがかかっている箇所について、これは旧約聖書の詩篇121篇5節で述べられている「The Lord is your keeper; The Lord is your shade at your right hand. 主はあなたを守る者、主はあなたの右の手をおおう陰である。」を表しているのではないだろうか。
「主はあなたの右の手をおおう陰」とは、あなたが積極的な意味において神戸の親密な交わりがあることを意味し、ひいてはその交わりにおいて人が神を知り、その秘密を知り、神の知恵と力を与えられることを表す。 母なる故郷に訪れた中で、「How Much A Dollar Cost」でも歌われているように神に出会ったこと、また「Momma」で自分と似た少年との会話を通して新たな目的や意味に出会ったことを鑑みれば納得が行くであろう。
Although the butterfly and caterpillar are completely different – They are one and the same 蝶と芋虫は全く違うものに見える でも彼らは一つで同じものなんだ
ここで言う「Butterfly」とは世間が称賛する成功者のことであり、「Caterpillar」とはフッドに囚われた黒人のことを表している。詩の中では一見「Butterfly」と「Caterpillar」は全く違うものに見えるが、両方とも才能や思慮に長けており、内面に美しさを持つ同じものであることが語られている。ここで言う「Butterfly」のLamarが「Caterpillar」の赤子を抱えながら、「every nigga is a star」と高らかに声を上げている様子を表しているのではないだろうか。
実は本作のブックレットには点字(と言っても印刷だが)で「Blank Letter By Kendrick Lamar(ケンドリックラマーによる空白の手紙)」と記載されている。「空白の手紙」は「もっとたくさん書きたかった」と言う意味があり、赤子が手にしているのは空白の手紙で、フッドに囚われている黒人達は「もっと言いたいことがある」と言うメッセージを表していると言う解釈ができるのではないだろうか。
本稿では、カバーアートにフォーカスして『To Pimp A Butterfly』を考察してきた。ここでは最後に「Mortal Man」に収録されている Lamar と 2 Pacのインタビューの一部を抜粋したい。
Lamar:here’s nothing but turmoil goin’ on so, I wanted to ask you – What you think is the future for me and my generation today? 今アメリカでは混乱が起きているからこそあなたに尋ねたい。俺や俺たちの世代の未来はどうなると思う?
2 Pac : I think that niggas is tired of grabbin’ shit out the stores – And next time it’s a riot it’s gonna be like, uh, bloodshed -For real, I don’t think America know that – I think America think we was just playing – And it’s gonna be some more playing but – It ain’t gonna be no playing – It’s gonna be murder, you know what I’m saying? – It’s gonna be like Nat Turner, 1831, up in this motherfucker – You know what I’m saying, it’s gonna happen 俺は、黒人達は盗むことに飽きて、流血が伴うような暴動が起きると思う。まじでだ。アメリカはそんなことに気づいていないと思うけどな。 アメリカは俺たちがただ遊んでいるだけだった思っているんだ。でもそれは全く持って違う。遊びなんかじゃない。それ以上のことが起きるんだ。殺人が怒る。1831年のナットターナーの反乱(黒人奴隷がアメリカで初めて起こした反乱)みたいにな。分かるだろ?俺が言っていることが。
K: That’s crazy man, in my opinion – Only hope that we kinda have left is music and vibrations – Lot a people don’t understand how important it is, you know – Sometimes I can like, get behind a mic – And I don’t know what type of energy I’ma push out – Or where it comes from, trip me out sometimes 狂っているよ。俺は、唯一の残された希望は音楽とそのヴァイブだけだと思っている。みんな、それがどれだけ重要かわかっていないんだ。時々俺はマイクに隠れたくなる。何を伝えようとしているかわからなくなる時がある。イカれちまうんだ。
P: Because it’s spirits, we ain’t even really rappin’ – We just letting our dead homies tell stories for us それは魂たからな。俺たちはただラップしているんじゃない。俺たちは死んだ仲間達のストーリーを伝えるんだ。俺たちのために。