過去の作品を見ても、その柔軟さと多才さは際立っている。SoundCloud にアップロードされた音源で、無骨なビートに鋭いラップを乗せたと思えば、アトランタ出身のプロデューサーCash Fargo がトータル・プロデュースしたエクスクルーシブEP『¥ellow Ca$h』では*JET LIFEを思わせるきらびやかなサウンドを自分たちの物にしている。彼らのサウンドにおける多様性は、メンバーそれぞれによる様々な趣向とバックグラウンドが混ざり合い育まれたものだ。(*JET LIFE = Curren$y 擁するニューオリンズのヒップホップ・コレクティブ)
そんな多様なジャンルを操る彼らの作品、そして彼ら自身に共通するのは、理想を追い求め挑戦をやめないポジティブな精神性と、クルーへの愛情だ。「俺はちょうど中3くらいに第1回の高校生ラップ選手権の存在を知って「高校生でも出来る」と気づいた。」と隆盛を極めた大会に出場したG-Yard は語る。Sound’s Deli を構成するのは97年・98年生まれのメンバー。「フリースタイル・バトル」というカルチャーを中心に日本の若者たちに再びラップが注目された、そんな時期に中学〜高校時代を過ごしたメンバーたちは22歳になった今、「音楽をずっと続ける」という理想を掲げている。そんなポジティブな挑戦を続けることができるモチベーションは、何よりクルーがいたからだとGypsy Well は曲中で語る。
“ 俺らがもしも出会ってなかったとしよう、きっと今よりBlack 先の見えないRoad – Same Gold ”
Moon Jam : MET君はいつも曲を一緒に作っているトラック・メーカー。でも、<Sound’s Deli>のメンバーではないんだよね。元々俺とMET君が一緒に曲を作っていて、後でみんなも彼と出会って。Gypsy Well と一緒にブッキングをしていた「evrgreen」で同い年ぐらいでイケてるアーティストを集めようと思っていて。<Sound’s Deli> はそこで集まったメンツですね。結成は2019年の夏です。
ー 元々全員が知り合い、友達じゃなかったわけじゃないんですね。
Moon Jam : そうですね。イベントで集まった演者とTim。自分が開いたイベントがきっかけです。同い年というのも大きかった。地元もバラバラなので。
Tim Pepperoni : 俺は普通に演者ではなかったから、当日にGypsy Well から連絡が来て行きましたね。直前まで迷ってたから、普通に行かない可能性もあって。
Moon Jam : てか、MET君が完全にディレクションをしたんだよね。誰がどのビートでやるか、とかも全部決めてもらって。
Gypsy Well : 先に全てビートを用意してもらってね。
MET : 今まで、俺はミキシングをやったり、指示を取る機会は多かったんだけど、今回はそこをビート含めて総合的にやったイメージ。ここが前作までと大きな違いですね。前回の『¥ellow Ca$h』は制作期間がタイトだったし、ビートも完成したものが送られてくるから、自由度は当たり前だけど低くて。今回はその自由度が上がって、俺がラップの仕方とか、構成とか、指揮も行った感じ。
MET : 一発半端ないエネルギーを持った「強い」ものを作ろう、というのはありました。大きいノリで、タフだけど、サウンドは今風で、BPMも遅め。60よりちょっと遅いとか。あんまりキャッチーなウケを狙ったものじゃなくて、スキルを見せたり、そういう自分たちのスタイルとか姿勢を一貫して見せようっていう気持ちで作りましたね。とにかく大きいノリを見せたかったんだよね。「ドカーン」って感じのやつ!(笑)
Moon Jam : そうだね。NYの現行のシーンに近い、大きいノリを見せたくて。これが今のやりたいことですね。
MET : うん。ふわっとした雰囲気のものはなくて、パキッとしたものが多いし、やっぱり暗いしね。でも、それだけじゃ面白くないから、工夫とか仕掛けみたいなものを作品には織り込んであるかな。良い意味の裏切りが最後に入っていたりとか。