「結局地元」「貧乏なんて気にしない」「飛行機」のヒットで日本国内のリスナーの心を掴み、Keith Ape による「It G Ma」で日本を飛び出し、世界からも注目を集めることになった東京都北区王子出身のラッパーKOHH。2016年、Frank Ocean の楽曲への客演参加が明らかになった時「彼はどこまで遠くへ行くのだろう」と思ったファンも少なくないだろう。
KOHH – 『worst』 1. Intro 2. Sappy 3. Rodman 4. 2 Cars 5. Anoko 6. I Think I’m Falling 7. John and Yoko 8. ゆっくり 9. レッドブルとグミ 10. シアワセ (worst) 11. Is This Love 12. 友達と女 13. What I Want? 14. They Call Me Super Star 15. 手紙
MonyHorse、Domino(Lil Kohh)という幼馴染、実の弟がイントロに登場するという幕開けから、2曲目「Sappy」は「Sad」と「Happy」が交差する感情を表現した一曲。この作品のメイン・テーマの一つでもある「KOHHにとっての「幸せ」とは何か」という疑問を引き出すリリックが綴られている。成功を手にし、「She said, fuck me Kohh you so fine」とモデルのような美女に言い寄られるKOHH。しかし、その感情は「Sappy」。幸せの中にどこか悲しさが入り混じる、複雑な心境であるようだ。その理由はアルバムの中盤で明らかになる。
「最悪な幸せ」。「Sappy」でも相反する感情を抱いていることを語っていたKOHH はアルバムのタイトルでもある「最悪」と幸せを同時に掴んでいる。「特別な関係」という表現から「John and Yoko」のような浮気関係や、誰にも話せない秘密を抱えた仲間への言葉に思えるが、どちらにしても、ここでKOHH は自身が手にした「幸せ」が人に話せない秘密の上で成り立っていると語る。人に嘘をつきながら手にした「幸せ」は彼にとって最悪なもの。でも、そこから抜け出すことはできないようだ。
“ だからあれも欲しい これも欲しい スーパースター 光る星 What I Want ? What I Want ? What I Want ? ” – What I Want
ここまでのアルバムの展開から突如鳴り響くアコースティック・ギターのギャップに驚いた人も多いことだろう。13曲目「What I Want」は穏やかなビートの上で、KOHH が自分自身が本当に求めているものは何なのかを自問する内容になっている。ラッパーとして成功しお金も名声も手にした。そんな彼が今必要としているのは、一体何なのか。次曲でその答えを彼は語っている。
リーマン、運送屋に売人 ラッパー、モデルに芸能人 大金持ち、それとも乞食 生まれる前卵子と精子 お金だけあっても馬鹿馬鹿しいし まず地元に一軒家ほしい 高級シェフでも敵わない すずんちの生姜焼き スーパースターに憧れて コンバースをボロボロにしてた くだらないことはどうでもいい 一回やってみ Love Sex Dream ” – But They Call Me Superstar
酒、高級クラブ、知らない有名人。ラッパーとして成功することで手にしてきたきらびやかな物よりも、彼は心の通った彼女、昔からの友達、いつもの仲間たちと過ごすことを選ぶ。「あれもこれも欲しい」と語っていた彼が本当に必要としていたのは、お金や綺麗な女性ではなかった。 2015年、「It G Ma」で「ボロいコンバースと重たい革ジャン」を着て、ロック・スターになろうとしていた彼は、その憧れを実現したからこそ、もっと身近なものこそが自分にとって価値のあるものであることに気づいている。