moment joon passport garcon

Album Cover

Moment Joon -『Passport & Garçons』
から印象に残ったリリック6選を紹介

MARCH 16 2020

アルバム『Passport & Garcons』を先日リリースした韓国出身・大阪在住のラッパーMOMENT JOON(モーメント・ジューン)

大学進学を機に大阪へ、その後「移民(留学生)」という肩書きを背負い過ごすことになる日本の生活の中で感じた日常や差別、韓国での徴兵経験など、そのバックグラウンドから生まれる、彼のリリックには日本社会が「見て見ぬ振り」をしてきた紛れもないリアルが込められている。

作品は時には挑発的に、時には恐怖と不安を、時には愛を、時には「捻くれ」とも言える偏見を演じきる時も。正直に、勇敢にその思いを語っている。

EP『Immigration』でビザの申請を拒否され、彼女を日本へ残し、韓国への出国を余儀なくされた、そんな状況から始まるのが今作『Passport & Garcons – パスポートと少年』だ。今回は「Lyrics Quotes」と題し、印象的なヴァース / ラインを紹介したい。

“ 震える足 引っ掛かりそうな所持品なし
ただ気になるのは追い出された時にカバンに入れたままの絶望
「次の方どうぞ」と叫ぶ ミスターオフィサー Please
パスポートじゃなく涙が俺の本人確認書類
凍っちゃう 冷たい審査官の目に
もし通れなかったら待たないで帰って Baby “ – KIX / LIMO

KIX(Kansai International Airport – 関西国際空港)と題されたオープニング・トラックで彼は自身が生まれた韓国から日本に帰ってくる。「もし通れなかったら、待たないで帰って Baby」というのは日本に住む彼女への言葉だろう。曲の終盤に入国管理局の職員から向けられる「それ(ビザの不許可)は出国ではなく、帰国ですね。」という冷笑混じりの言葉は、日本という場所が彼の「ホーム」ではないという宣告を受けているかのようだ。「入れないかも」という入国における独特の緊張感が伝わってくる。

“ 部屋には食用の犬 何匹か数えてみる?
하나 둘 셋 넷 ご ろく しち お前も含めたら8匹
部屋の匂いはにんにく 今日の夕ご飯は人肉
近くにトンスル美味しい所があるけど二次会行く?〜

説明しても無理
チョンである罪
違うと言っても俺のことは聞こえないふり
ネットで見てた韓国人 それが俺?
犬を食って暴力振って それが俺?
皆が見たいものを演じてる 日本はステージ “ – KIMUCHI DE BINTA

結果的に入国することができたMoment Joon。「キムチでビンタ」という印象的なトラックで彼は、常日頃、在日韓国人へ向けられる偏見を、あえて「そのまま」に演じきることで、行きすぎた偏見を皮肉っている。「韓国人は〜」という広すぎる主語を定義することの愚かさを「キムチ」というアイコニックな食べ物で気づかせるわけだ。

“ ね、ちょっと違うってそんなに悪いの?
違う奴らにも必要だよ 飲み物と食い物、家族、頭の上の屋根
でも日本の答えは「自己責任だからしゃねー」
だから生きるため頑張ってるだけ、外人って日本から奪ってるだけ?
弁当屋で働いてんじゃないの?コンビニで俺らを見たんじゃないの?
使った後は捨てる。あの技能実習生たちは今どこ?ヘドがでる
でもそりゃ話さない ワイドショーは
学校のイジメこそ日本の調和
そのせいで何人の子どもが涙を流した
それがニッポンだって?あ、分かりました
それが美徳なら、おりゃチョンで良い
差別されてもお前らの10倍はFree

お前らが何と言ったって未来は僕らのもの
俺がニッポンになる お前が気づく頃
大坂ナオミが優勝しなくても
日本人ってちゃんと呼ばれる時代が来るぞ “ – Home / Chon

日本における「美徳」や「調和」という良いとされてきた価値観の欠陥を指摘した” Chon “。犠牲や悲しむ人を出しても、調和を維持することを良しとする価値観が「Free」とは程遠いものであることを痛烈に感じさせる。
しかし、彼はネガティブな点を指摘するだけでなく、そんな日本の未来が「僕らのもの」であると語る。自身を「日本のヒップホップの息子」と形容する彼が、いかに日本に対して当事者的な意識を持ち、犠牲を伴う「美徳」を変えようとする、前向きなマインドを持っているかがわかるラインである。

“ いつも「仲間」と「地元」を繰り返すだけでしょ 所詮
いきなり歌詞に出てくる「青い空」
そんなぼかした歌詞に熱狂する人ら
それか言うべき Club, bitches, vodka
いや、フリースタイルですって言って叫ぼうか?
韻を踏まないラッパーたち
「それが常識だよ」俺だけ逆立ち
社会と人間を見ないラッパーたち
「それが常識だよ」俺だけ逆立ち “ – Losing My Love

“ Losing My Love “では日本のヒップホップ・シーンへの皮肉を。「社会と人間」にフォーカスを当てるヒップホップをやっているのは自分だけであると表現する。

“ 休憩中でも子供と日本語で話すなっていう学校の先生
外人だから外人をやれ それを超えたら牽制
俺より英語が下手な白人は時給俺の1.5倍
それでの頑張って働いたのに先月分が入ってこない
名刺の代わりに通帳 在日だったら通称
でも俺はそうでもないから横文字名前 振り込みお願いします
俺は稼ぐよ 大地震が起こるまで
いや、安倍の顔が5万円札に載るまで

インタビューしようと言ってくる NHK、毎日、読売
本当の僕を見せてくれますか?って聞いたら「いや 無理」
Rest in peace 沢尻エリカ 血が付いてる メディアの手には
権力者には向かない指 その指で締められる俺の首
歌うよ 大地震が起こるまで
いや ワイドショーのおっさんが俺に怒るまで “ – Hunting Season

“ Hunting Season “で、彼は日本でのアルバイトの経験を語る。いかに日本に住む人々が「肌の色・国籍」で人を偏見の目で見ているかがここでは伝わってくるだろう。後半はマスメディアに関する指摘である。リリックによると彼はいわゆる「移民ラッパー」としてメディアに取り上げられることがあるそうだが、そこで扱われる情報は「血のついた」メディアによって制限されると。

“ 君に出会ってやっと分かったよ 今まで歌ってた意味が
でも実際の君はかなりシニカル
頑張ってほしいけど、モーメント、これって正直意味ある?
ラッパーいつもそうだった 日本語ラップの村に逃げちゃう
ラッパーはいつもそう 何も思わずビッチと言えちゃう
ラッパーはいつもそう 政治はいつもそう 日本はいつもそう
それが君の口癖(What do you say?)確かに疲れそう
でもまずは僕ら自身が変わろうよ
そして日本の常識を変えるとこまで上がろうよ
難しいって知ってるよ だからそれまでは俺が戦う
後で一緒に言われようぜ「お前らホンマバカちゃう?」

まさに俺にはそうだった  18年1月24日
いまECDさんに会えたら今の俺は何を言おうか
まじ怖くて、怖くて逃げたいです とは言えない
でも彼なら、俺が言いたいこと知ってるかも知れない
感じてる 俺の中の彼のルーツを
だからこのクソチョンは日本のヒップホップの息子
その日に決めたよ 俺の英雄は二度と死なせない
だから俺は今の俺と君を絶対死なせない
「道がありません」って何だ 「数が足りません」って何だ
いつもの言い訳の代わりに今の俺はマイクを掴んだ
君も見せてくれよ こぶし
スカイツリーじゃなくて君が居るから日本は美しい “ – TENO HIRA

アルバムのラスト・トラック” TENO HIRA “で彼は自身の目標と、ヒップホップと一人の「君」という人間への愛情を語る。

彼はこの曲で日本におけるラップ・シーンや政治の過去にあった負の側面を勇敢に告白し、その常識を「俺たちが変えるんだ」という強い意志を表明する。ビザの申請を拒否され、韓国への出国を余儀なくされた若者は、外からではなく「内側」から日本という国の当たり前を変えることを宣言するわけだ。

「言い訳を捨て、マイクを握る。」諦めてしまいがち、見て見ぬ振りをしがちになってしまう現実を受け止め、理想へと走り続ける。アルバムを通して、そんな声が聞こえてくるような作品だった。どんなバックグラウンド、考えを持っている人にも。ヒップホップに興味がある人も、ない人も、是非一聴して欲しい作品だ。

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