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アトランタの性犯罪問題から

T.I.の「処女検査」発言について考える

NOVEMBER 13 , 2019

WRITTEN BY Mae Kakizaki

先日、娘に毎年「処女検査」を受けさせていると発言し、物議をかもしているアトランタ出身のラッパーT.I.。

ポッドキャストで配信中の番組『Ladies Like Us』にゲスト出演した際、自身の子どもの性教育について聞かれた彼は、「つい最近18歳の誕生日を迎えた娘に処女検査を受けさせるため産婦人科に同行した」と話した。
さらには、その検査が父と娘の毎年恒例の行事となっており、検査結果も一緒に確認するといった一連の発言は瞬く間に『The New York Times』『Washington Post』などの大手新聞社や、CBSやNBCなどのテレビ局までもが取り上げる事態に発展した(なお、当エピソードはT.I.の発言を受けた際の司会者の対応に問題があったとして、後日削除された)。

一部のメディアは、WHO(世界保健機関)などの国連機関が処女検査には「科学的かつ臨床的根拠はなく、女性が性行為を行ったことを証明できる検査はない」と発表していることに言及し、ジャーナリストや有名人たちが「女性の人権を侵害している」と非難。中でも、かつてT.I.のレーベル「Grand Hustle Records」に所属していたイギー・アゼリアがTwitter上で以下のような批判をしたとして注目を集めた(現在そのツイートは削除されている)

 “Unfortunately, he is dead serious. I really wish the women who interviewed him would have said something to him.”
“He has serious control issues with women in all aspects of his life and needs therapy.”

残念なことに、彼は大真面目なのよ。その質問をした女性たちには、彼に何か言ってほしかったわ。(T.I.の発言に対して、司会女性2人は笑っていたと報道されている)
彼は、人生のあらゆる面で女性をコントロールしていないと気が済まないという深刻な問題を抱えているの。セラピーが必要よ。

世論を沸かせることになったT.I.だが、彼が9月に公開した「you (be there)」のビデオの中で、地元・アトランタが抱える問題を提起していた点に、今回の騒動に発展した発言につながるヒントがあるのではないかと考えずにはいられなかった。
昨年リリースされたT.I.の通算10作目となるアルバム『DIME TRAP』に収録されている「you」「be there」の2曲を1つにまとめたこのビデオは、全編を通してジョージア州アトランタで深刻化している未成年者をターゲットにした性的人身売買の問題に対する啓蒙メッセージを込めたストーリーとして展開。

現ジョージア州知事であるブライアン・ケンプ氏の声明の一部を引用した映像からスタートする。

“In this city, Atlanta has become a hub for human trafficking. Innocent children are simply being sold for sex. Evil people committing evil deeds all to turn a profit”

このアトランタ市は人身売買の拠点となっている。無垢な子どもたちがセックスのために、いとも簡単に売られているのだ。非道な人々が非道な行いをして、それを利益にしている。

その映像の後、このビデオの監督も務めたティヤナ・テイラーが、T.I.と共に性犯罪に手を染める男性を無差別に殺害していくというバイオレンスに満ちた内容となっている。
しかし、この残虐な行為の裏には、かつて性被害に遭ったことがきっかけで自ら命を絶ってしまった幼い頃の友人の存在が。2人は、その友人に代わって“ 復讐 ”を行っているのだ。

曲が終わり、エンドロールへとシーンが変わる前にも犯罪被害の実態を表す引用が約25秒間にも渡って流れる。その引用の中には「ジョージア州では毎年3,600人もの未成年者が人身売買の被害に遭っている」といった統計も。
今年、アトランタは「第53回スーパーボウル」の試合会場としてアメリカ全土から多くの人々を迎えたが、その期間中に未成年者の人身売買に関わったとして169人もの逮捕者が出るなど、問題の深刻さは計り知れない。

(Youtube T.I. Official)

イギーの言うとおり、T.I.は女性に対するコントロールという面で問題を抱えているのかもしれない。筆者も、彼の行動を何の疑問も持たずに受け入れることは難しい。
しかし、その行動の裏には彼が長年生活を送るジョージア州で、「性犯罪」という深刻な問題を誰よりも身近に感じているからこそ、自分の娘を守るという意味で、行き過ぎた干渉に走ってしまったのではないかとも感じられるのである。
メディアで取り沙汰された11月7日以降、彼はこの件に関するコメントはストップしており、今後の展開に注目が集まる。

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