Tory Lanez (トリー・レーンズ) ことデイスター・ピーターソンはカナダ・トロント生まれ、バルバドス島、キュラソー島出身の両親の元で育ったアーティストだ。現在27歳の彼が、11月15日にリリースした自身4枚目となるスタジオ・アルバム『Chixtape 5』 は2000年代を彩ったR&B/ヒップホップソングをサンプリング、それぞれの楽曲を製作してきたアーティスト達を迎えた作品。 Tペイン – “ I’m Sprung “、クリス・ブラウン – “ Take You Down “、リル・ウェイン – “ A Milli “、スヌープドッグ – “ Beautiful “など、2000年代のR&B/ヒップホップを熱心に聴いていた人なら、つい反応してしまうサウンドがこのアルバムで再び息を吹き返した。そんな最新作が製作に至った経緯、製作中のプロセスをBillboard 、SSENSE のインタビューを引用しながら紹介していきたいと思う。
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” 全てが2000年代にインスパイアされている。 – Billboard “
デイスター(トリー) は語る。
” このアルバムの全てが俺たちの世代の” ゴールデン・タイム “にインスパイアされているんだ。アルバムの隅々にノスタルジア (懐かしさ) が見えると思う。みんなを音楽のジャーニーに連れて行くよ。 – Bilboard “
これだけ多くの現役アーティスト達の音源をサンプリング、彼/彼女らをゲストとして招きスタジオ・アルバムとして公式にリリースするためには、多くの障壁があることだろう。しかし、彼が依頼を行なったアーティスト達はこのプロジェクトには好意的だったようだ。
“ みんな躊躇いもせず、愛を示してくれたよ。クレイジーなことだよな。 アーティストとして本当に嬉しいことだ。俺の作品が偉大な彼/彼女らに十分リスペクトされていることの証でもあるからね。 「あいつなら、曲の権利を貸してもいい。」なんて風に思ってもらえたのかも。同じようなプロセスを踏んで上手くいかないアーティスト達もいるけどさ。 – Billboard “
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この作品を聴くだけでは考えられないが、彼は以前までコラボレーションには慎重なタイプのアーティストだった。 2016年にリリースしたデビュー・アルバム『I Told You』にゲストとして参加したアーティストは一人もおらず 、プロジェクトは非常に内省的なものとなっている。「孤独が好きなタイプ」、SSENSE が行なったインタビューによると、死を予感したことが彼のマインドを大きく変化させたという。
” これ (『Chixtape 5』) は、死にかけた体験から生まれたんだ。それがアルバム全体のインスピレーションになった。
プライベート ジェットに乗ってたら、飛行機が墜落しかけたんだよ。3万9000フィートから1万1000フィートまで高度が下がってさ。皆死ぬところだったけど、幸運にも高度1万1000フィートで機体が持ち直した。あと5分遅かったら、飛行機は本当に墜落してた。
飛行機を降りたとき、自分がこれまでにやってきたことを本当に考えさせられた。一緒にやりたいと思っていた全員と仕事をしてきたか? 他のラッパーの作品に自分も参加できるよう最大限努力をしてきたか? もし俺が死んだら、そのアーティストは、俺と一緒に仕事をするのは素晴らしい経験だったと言ってくれるか? そういう人間関係のために、十分努力してなかったような気がした。だからこそ、こう思ったんだ。「もしそれが本当なら、俺は多くのことを変える必要がある。そして俺のレガシーとして、人から認められ、高く評価されるものが必要だ 」って。どうせやるなら、「トリーは誰ともコラボレーションしなかった時期もあるけど、俺のためにこれを引き受けてくれたのは、アーティストあるいはサポーターとしての俺が好きだからだ。今回、トリーは他のアーティストと共演してるけど、それが嬉しいし楽しみだ。」と思ってもらえるようにしたかった 。- SSENSE ”
死を意識し、自身のレガシーを世の中、ファン、もしくは家族のために残すために彼はそのマインドを切り替えたのだという。 「有名になりかけた頃に、多くの人に裏切られた。- SSENSE 」という原体験が彼をコラボレーションから遠ざけていたようだが、今作では非常に多くのアーティスト達と彼は仕事をしている。この試みは彼の心の中で起きた変化によって生み出されたのだ。
この作品は当時の懐かしさを感じるサンプリングがなされただけでなく、その楽曲には大きなアレンジがなされている。原曲の雰囲気を感じさせるリメイクもあれば、ピッチ、メロディ、音色などが大きく変化されたリメイクもある。どちらにしても彼は2019年現在に楽曲を「蘇らせる」ことに成功している。
“ ロイドとリル・ウェインの” You “ (15曲目” Thoughts “でサンプリング) は実際にビートが変化してる。全く違う方法を試みたよ。 この曲にはアフロビートのようなサウンドを追加したし、曲は全く変化してる。 – Billboard ”
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プロダクションの面でどの作品よりも今作には自身が深く携わったと彼が語るように、このアルバムの中に度々現れるビートスイッチは彼の頭の中にあったアイデアを再現したものだそう。 彼は製作のプロセスを以下のように語った。
“ メトロ・ブーミンやティンバランドのようなビート作りに方程式を持つアーティスト達がどんな風に作っているかわからないけど。 俺は誰にも教わっちゃいない。だからオーソドックスでは全くないんだ。 マジで変なサウンドに聴こえるよ。ハイハット一つ取っても、聴きなれないはず。俺はバイブスとフィーリングで作っているから。 自分自身で何度も試行錯誤して、進化したいと思ってるから、それが楽曲をとてもクレイジーにしているんだ。 – Billboard “
自身が多くのMVで監督を務めることにも表れているように、彼はその作品の多くを自己流 で生み出している。だからこそ、このアルバムはリミックス/アレンジでありながらトリー・レーンズのオリジナル を強く感じさせるのだ。 彼が「クレイジー」と称する、アイデア、そしてフィーリングを是非感じてみて欲しい。特に2000年代のR&B/ヒップホップを愛する人たちは要チェックだ。