kenny-mason

Corey C Waters / Complex

複合と調和を生み出すラッパーKenny Mason
デビュー・アルバム『Angelic Hoodrat』に込めた想いを語る

APRIL 18 2020

1994年のアトランタ、Outkast のデビュー・アルバム『Southernplayalisticadillacmuzik』がリリースされた年に生まれた若手アーティストKenny Mason(ケニー・メイソン)がデビュー・アルバム『Angelic Hoodrat』をリリースした。

柔軟なフロウも、ハードなスタイルのラップも、フックを歌い上げることもできる。ラップにおける「多才さ」という意味で多くの要点を押さえている、25歳の期待のアーティストは昨年末にリリースした先行シングル “ HIT ”のヒットでも知られ、まさにアトランタの新世代を担うアーティストの一人と言えるだろう。

未だインターネット上にも多くの情報がないKenny がデビュー・アルバムのリリースに合わせComplexのインタビューに登場。『Angelic Hoodrat – 天使のような*フッドラット』と題されたデビュー・アルバムにはどんな想いが込められているのだろうか。アルバムのリリースのプロセスや、そのサウンド、今後の目標まで語ってくれたので、紹介していこうと思う。(*治安の悪い低所得層地域に住む若者のこと。「教養のない」などネガティブな意味も込められている。)


(GQ)

アーティストの中にはアルバムのリリースを遅らせている人もいるよね。なぜリリースを決断したの?

最初は俺たちも遅らせることを考えてた。状況は本当にシリアスになっていたからね。まずは人間として生きるため、無理にアルバムをリリースしようとは思えなかった。まずは家族の安全を守るためにね。確かパンデミックと呼ばれ始めて1週目だったな。その後、みんなが自宅に篭ることになった。

でも人がこの状況を乗り切るためには音楽が必要だろ。俺の音楽には内省的な音色、孤独な音が込もっていると思うし、今この世界の悲しい状況には合うと思うんだよ。

コロナ・ウイルスの拡大に伴い多くのアーティストのリリースが延期されているが、彼はセールスに悪影響が出ようとも「作品が人に寄り添うことができるなら」という思いから、リリースする決断を取ったそうだ。

アルバムはいつから作り始めたの?

一番古い曲が2017年に録ったもの。3年か、それくらいかな。色々なバージョンを山ほど作ったから、曲を付け加えたり、外したりしてね。結局当初の作品とは全然違うものになったけど。

アルバムのタイトル『Angelic Hoodrat』に込められた意味は?

俺の曲の中の1ラインなんだ。最初はただクールな言葉だなと思って言ったんだけどさ。嘘はつかないから正直に話すよ。そこまで深く考え込んで決めたものじゃないね。アーティストとしての美学にフィットしていたから決めたんだ。

俺と仲間で収録予定の曲を聴いてた時、その曲がかかったんだ。その時仲間が「これをタイトルにしたらクールじゃないか」と提案してきたんだよ。でも、それだけではタイトルにする理由にはならないから、自分の中でこのセリフが何を意味しているのかをしっかりと考えた。

そこで「Angelic Hoodrat」というワードがみんなにも理解できる形で俺の持つ二面性を表すのに一番イケてる表現だと思ったんだ。誰もが陰と陽を自分に持っている。俺自身も間違いなく、天使の側面と、フッドラットの一面を持っているんだよ。この作品は人生において訪れる葛藤について語っている。天使になる時もあれば、フッドラットにもなる時があるってことをね。”

「天使」そして「フッドラット」彼の2面性を表現した今作のタイトルは未公開作品のリリックに由来する。タイトル・トラックでは生と死について、フッドで生きる現実と理想が対比しながら、その2面性を表現していた。

彼、そして彼の作品は間違いなく「アトランタのラッパー像」とは異なるサウンドをメイクしている。エモ・ラップでもなかれば、純粋なトラップ・ミュージックでもない。まさにKenny Mason そのもののサウンドを生み出している。つまり、彼は今まで吸収してきた様々な多くの要素を上手く組み合わせ、それを作品に誰よりも上手く落とし込んでいる。それこそが彼の魅力だ。

この作品では実験的なサウンド、技術を試みた感覚はある?

2018年、2019年の上旬はより実験的な作品を作っていた。俺は色んなジャンルの音楽を聴くんだ。色んなタイプのアーティストが好きだし。だから自分にリミットをかけたくない。だから1つの形、1つの枠にハマりたくない。形のない、枠組みのない存在になりたいんだ。

この作品のテクスチャーの多くはロックや、もしかしたらR&Bから影響を受けている。クレイジーに仕上がってるよ。収録曲は俺なりの理解を表現した作品になったんだ。

あなたは柔軟で、様々なジャンルからインスピレーションを受けているよね。それでも自分をラッパーと表現する?

俺はアーティストなんだ。そのコアにあるのは間違いなくラップだね。俺はラップを愛してる。だからいつもラップをしてるんだけど。それが音楽を始めた理由だし。けど同時に「音楽」も大好きなんだ。
だから曲によっては全くラップをしていないものもある。ラップしかしていないものあるけどね。それらが同じアルバムに収録されているんだ。俺はそれらを調和させることができるんだ。

多くの若手アーティストの中で、なぜ自分が注目されたと思う?

俺の今までの経験や、自分の興味を輝かせた物の組み合わせ、その組み合わせ方だと思う。俺は他の人と同じようにハードワークしてるし。違いを生むのは、今までの経験だと思う。誰もが違う過去を持ってるから。もっと多くの人がそれを自分のものにして、音楽やアートに落とし込めれば、もっと面白くなると思うよ。全ての人のストーリーは違うわけだし。 ”

「形のない、枠組みのない存在になりたいんだ」その言葉の意味は彼のデビュー・アルバムを一聴すればより明確にわかるだろう。彼自身も様々な要素のミックスと、その調和こそが自身の特徴だと考えているようだ。彼が特定のラッパー、アーティストのフォロワーとして捉えられない、形容されないのは、こういった彼の持つマインドが直接的に影響しているのだろう。

インタビューの最後には、今作における目標、将来の目標、今伝えたいことも明かしてくれたので紹介したいと思う。

” このアルバムを通じての目標はある?

俺のことを知ってほしいと思っていたかな。俺の感情を知ってほしい。
これは俺にとってファースト・アルバムだ。俺のストーリーを今までよりも明らかにしてる。けど俺が自分のことを正直に表現するのは、俺と同じような感情を抱いている人に共感してほしかったからなんだ。

この作品がヒットするかしないかは気にしてない。売れるかどうかに関しては何の期待も、目標も据えてないんだ。俺は新人アーティスト。このプロジェクトは厳密に言えば、俺と同じような場所で生まれ育った人のためにある。俺と同じような感情を抱いたり、俺と同じような経験をしてきた、そんな人たちのためにあるんだ。

アルバムにはゲストが参加していないね。何か意図があるの?

ああ、意図的だよ。最後の最後で決めたんだ。
俺がゲストを入れなかったのは、このアルバムがみんなと出会うためのものだからだ。イントロダクションなんだよ。だから気を逸らしたくなかった。俺と世界との親密な会話を作りたかったんだ。

将来の目標は?

俺の天使的な一面は、俺の音楽を本当に欲してくれる人のために作品を作りたいと思ってる。それがどんなものかは明確には言えないけど、毎日ベストな自分でいれば、最高の音楽を作ることにも繋がると思うから。そうすれば、みんなもベストな方法で受け取ってくれるはずだし。

あと、俺は文化と音楽を前進させたいと思ってる。俺は多くのアーティストを聴いて育ってきた。俺には彼らのようなアーティストが必要だったんだ。

フッドラット的な一面では、世界で一番のアーティストになりたい。どんな形でも、自分らしく、リアルでい続けて、それを実現したい。

今みんなに一番伝えたいことはある?

一番伝えたいのは「俺が完璧な存在じゃない」ってこと。だけど自分のベストな状態になるためハードワークするよ。あと、誰かの幸運は誰かの不幸の上に成り立っていて、誰かの不幸は誰かの幸運の上に成り立っているということを伝えたいかな。人のことをジャッジできないと学べば、自分自身にも優しくできる。そっちの方がみんな、より健康でいられるだろ。 “

アトランタ出身、現在25歳の若手ラッパーKenny Mason のデビュー・プロジェクトは昨日リリースされたばかり。彼の「自己紹介」とも言える一作を是非チェックしてほしい。

ツイッターでは投稿のお知らせだけでなく、ヒップホップ・ニュースやリリース予定など様々な最新情報をお届けしています!

RELATED POSTS

...

LATEST NEWS

FEATURE

LATEST LYRICS

©︎ SUBLYRICS, 2020, All rights reserved