チャイルディッシュ・ガンビーノとは

複数の顔を持つ、稀代のエンターテイナー

OCTOBER 6 , 2019

Childish Gambino (チャイルディッシュ・ガンビーノ) :
Donald Glover (ドナルド・グローヴァー)

生まれ : 1983/09/25 (36歳)
出身 : アメリカ / カリフォルニア・エドワーズ空軍基地

コメディアンとしてデビュー、現在では俳優、監督、作家、ラッパーとして活動するなど、エンターテイナーとして複数の顔を持つアーティスト、ドナルド・グローヴァー。

グラミーで4冠という大業を果たしたラッパー「チャイルディッシュ・ガンビーノ」という名前でも広く知られる一方で、4シーズン目の製作も決定しているドラマシリーズ『アトランタ』の監督・主演、スターウォーズ・シリーズにも出演するなどラップ以外で用いる本名「ドナルド・グローヴァー」も頻繁に目にするようになりました。

「ラッパー兼俳優」と聞くと、アイス・T、ウィル・スミス、リュダクリス、LL クール Jなんかのイメージが浮かびますが、彼はラッパーとして名誉ある賞を手に入れながら、” 監督・作家 “としても大きな評価を得るという、単に「プレイヤー」としてだけではない「クリエイター」としての評価も非常に高いのです。果たして同じようなことができるアーティストがどれだけいるでしょうか。

今回は、そんな稀代のエンターテイナー、チャイルディッシュ・ガンビーノ / ドナルド・グローヴァーについて、音楽・映像作品に関わらず、生い立ちから現在まで広く紹介していきたいと思います。

1. 生い立ち
2.デビュー / コメディアン・アクターとして
3. デビューアルバム『Camp』/ パンチラインの応酬と屈辱
4. 俺はドレイクじゃない / 『Royalty』に込めた決意
5. 『Because The Internet』/ コンセプトアルバムという可能性
6.『アトランタ』/『Awaken, My Love!』 
7. This Is America / 止まらないエンターテイナー

生い立ち

本名 : Donald Mckinly Glover Jr (ドナルド・マッキンリーグローヴァー・Jr) は、1983年9月25日、カリフォルニアにある空軍基地「エドワーズ空軍基地」に生まれ、その後すぐに家族と共にジョージア州アトランタに移り住みます。
幼少期からアトランタ郊外に位置する「ストーンマウンテン」という山の麓の街で育った彼ですが「その地域にアフリカン・アメリカンの家族は自分たちだけだった」と語るなど、幼少期から白人のコミュニティの中で育ったことがわかります。
しかし、街の中で唯一の黒人として幼少期を過ごすことは簡単なことではなく、彼は Esquire のインタビューで、幼少期の記憶をこう語っています。

そこら中にアメリカ連合軍*の旗が立っていた。
友達はホワイトばかりだった。彼らの両親は俺にとても優しく接してくれた。でも裏では「あの子と遊んじゃダメ」なんて言われてたんだ。
セサミストリートの世界*なんて存在しないってことを突きつけられた瞬間だったね。

(アメリカ連合軍の旗* = 南北戦争時の南部諸州が建国したアメリカ連合軍のフラッグ。現在では「奴隷制」や「白人至上主義」を肯定する人々のシンボルとして用いられることも。)
(セサミストリートの世界* = アニメ・セサミストリートの世界には、多様な人種だけでなく多様な生物さえも包括した住人たちが共存しています)

歴史的にKKK* との関わりも深いとされる街で「唯一のアフリカン・アメリカン」として育った彼の少年時代は、アメリカに存在する暗い現実を間近で目の当たりにすることも珍しくなかったのでしょう。

(アトランタ・ストーンマウンテンの街並み)

Google Map曰く、アトランタから車で30分ほどの距離らしく、まさに「郊外」といった街で過ごしたグローヴァー一家。父は郵便局員、母はデイケアのマネージャーの仕事をしていたそう。
彼の両親は地域のフォスターペアレンツ(里親)連盟の代表を勤めていたらしく、血の繋がった3人兄弟に加えて、様々な子供たちと共に暮らしていたそうで、当時を振り返り彼は、

色んなカラーの、色んなタイプの子供たちがいた。
思いつく限りの最悪のバックグラウンドを抱えた子供たちだった。
(マーク・マロンとのポッドキャストでの対談から)

と語っています。
そして同時期には幼い3人兄弟には堪え難い光景に晒されたと語ります。

住んでいた家の中で子供たちがAIDSで亡くなっていくのを見た。
ナイフで人が刺されるのを見たんだ。ドラッグ・ディーラーたちがアドレス・ブック(住所録)を盗んで、俺たちの家を突き止めるんだ。
うちには金を払えずに逃げてきた奴らがいたから。
(The Hollywood Reporter)

また彼の両親はキリスト教系の新宗教「エホバの証人」を信仰していて、厳しい規律(テレビを見てはいけないなど)を教えられながら育ったようです。
WIRED のインタビューでは、「クリスマスとかのお祝い事を一切しないんだ。お祈りもしないし。みんなにはそれが理解できないみたい。」と語っています。

ある程度裕福な家庭で育ったとされるものの、上記のような「特殊」な環境で育ったことが彼の作品に大いに影響を与えることとなります。

デビュー / コメディアン・アクターとして

地元アトランタにある高校、アートの専門学校を卒業し、全米有数のエリート私立大学NYU (ニューヨーク大学) で「Dramatic Writing – 演劇脚本」を専攻、無事に大学を卒業します。

NYU在学時から彼はその才能を大いに発揮します。
大学の同級生と共にスタートしたスケッチ・コメディ・グループ「デリック・コメディ」はインターネット上で大人気となり、Youtubeのチャンネル登録者は20万人を越えるほどに。

以降、シンプソンズのプロデューサーを務めるデイビッド・ミラーに脚本の執筆のオファーを受け、直々に高評価を得たことで、NBCのコメディドラマ「30 Rock」の脚本を2006-2009年の3年間の間務めるなど、コメディアン・コメディ・ドラマの脚本家として成功を納めます。

また大学在学中にラップ・ミュージックの製作も始め、ミックステープ『The Younger I Get』を完成させます。リリースされることはなかったものの、在学時より楽曲の製作に興味があったことがわかります。
以降2011年のメジャーデビューまで11作ものミックステープをセルフ・リリースという形で作り続けていきます。

大学卒業後、俳優として『Community』というアメリカのコミュニティ・カレッジを舞台にした人気ドラマにメインキャラクターとして出演。この出演が彼の顔と名を大きく世間に広めることとなります。

(この作品に出演した際、彼はサウンドトラックを担当していたルドウィグ・ゴランソンに出会います。
彼はデビューアルバムから最新の作品まで、ほぼ全ての作品を共同プロデュースしているドナルドの盟友的存在です。)

デビューアルバム『Camp』/ パンチラインの応酬と屈辱

自分の名前を入力するとウータン・クラン風のステージ・ネームをつけてくれるウェブサイト< Wu Tang Name Generator >をご存知でしょうか。
彼はこのサイトで出力された名前を大胆にも採用、それが「チャイルディッシュ・ガンビーノ」だったというわけです。
コメディアンとしての人気、すでにラッパーとして数十作にも及ぶミックステープをリリースしていたこともあり、メジャーレーベルである「グラスノート・レコーズ」と契約を果たし、2011年、デビューアルバムCampをリリースすることに。

コメディアン仕込みのユーモア溢れるリリックに、ダブルミーニングは当然とも言えるほどのテクニカルなパンチラインの連続
まさにコメディアンのスマートかつユーモアなイメージそのものといった作品に仕上がったデビューアルバムは「軟派」と言われながらも、そのキャッチーさで全米11位まで上り詰めるまでに。
国内の大型フェスにも参加するなど、ラッパーとしての成功も手に入れたと思われていました。

しかし、嫌な予感は当たるもので同作は音楽レビューで絶大な信頼を持つメディア「Pitchfork」に「1.6点 / 10点」というとんでもない数字を点けられてしまいます。
ピッチフォークにコケにされた彼はここから「軟派」、そして「コメディ・ラップ」のイメージを覆すべく、ラッパーとして新たなステージに進んでいきます。

俺はドレイクじゃない /『Royalty』に込めた決意

大きな屈辱を味わったドナルドはデビューアルバムから年をまたぎ、2012年4月先行シングル” We Ain’t Them “をリリース。

すでに気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、ジャケットには現在最も人気のあるラッパーといっても過言ではないDrake (ドレイク)のアルバム『Take Care』のジャケットと、ヘッドホンを持った少年がそれを見つめる様子が描かれています。

俳優出身のラッパーという共通点に加え、デビューの時期も近い二人。
上述の『Take Care』がグラミーでベスト・ラップ・アルバムを獲得したこともあり、ガンビーノはその作品の評価を明確に彼と比較されることとなります。
シングルのタイトルは” We Ain’t Them – 俺はあいつらとは違うんだ “。
他のラッパーと比較され批判されることへの反抗心を感じます。

” Fuck boys chase hype and scratch chicks
And niggas who stopped textin’ after 1.6 “

ハイプと女ばっかり追いかけてる男共なんてクソ喰らえ。
1.6点が出た途端、連絡してこなくなる奴らもな。

「パンチラインを抑えて、スワッグを増大させた」とリリック中で語るこの曲は、彼の「軟派」「コメディ出身」というイメージを破ってやるという決意にも聞こえてくるわけです。

このような背景がり、その後リリースしたEP『Royalty』は、決意通り、ニプシー・ハッスル、スクールボーイ・Q、RZA、ゴーストフェイス・キラーなどヒップホップのカラーが強いゲストを迎え、以前のようなユニークなパンチラインもある程度抑えられた、そんな作品になったわけですね。

Because The Internet』 / コンセプトアルバムという可能性

2013年も終わりに差し掛かる12月にリリースされたセカンドアルバムBecause The Internetは、
ラッパー・チャイルディッシュ・ガンビーノだけでなく、俳優・監督を務めるドナルド・グローヴァーとしての顔が作品に登場することになります。


というのも、このアルバムは19曲のトラックだけでなく、インターネット上に彼自身が記した「ストーリー」が同時に進行していくコンセプト・アルバムで、このストーリー中には映像も含まれていて、ドナルド自身が主人公を演じているのです。
この作品で彼はインターネットが生活の中心となった現代に生きる「The Boy – 少年」という裕福な家庭に育った青年とその仲間たちの日常をアルバム中で描き出しています。

「脚本を読み進めながら、曲を聴いて欲しい」と本作の前置きで語った彼の言葉通り、収録曲を聞くだけでは彼がこの作品に込めた思い、ストーリーは半分も伝わらないでしょう。
「曲と脚本、どちらがメインなのだろう。」

そう思うほどにこの「脚本」には膨大な情報量・文章量が詰め込まれています。
その情報の多さ・引き込まれる世界観は最初から最後まで鑑賞した後にまるで映画を一本見たかのような感覚になるほど。
この世界観の作り込まれ方は大学で脚本を専攻し、すでに数作の脚本を描いてきたドナルド・グローヴァーならではというところでしょうか。

彼自身の出自・経験との共通点も感じられる脚本の主人公The Boy
先ほども述べたように、彼はインターネットの時代に生きる「裕福な家庭に育った青年」。
豪邸に住み、毎週仲間たちとパーティを開く、物質的に何不自由ない生活を送る一方で、信頼できる人の不在を嘆く、愛・精神的に充足することができない主人公の感情が緻密に描かれています。

All of them people my kinfolk, at least I think so, cant tell
Cause when them checks clear, theyre not here

そいつらみんな俺の親友だよ、少なくとも俺はそう思ってる。こんなこと言えないけどな。
だってみんな支払いが済んだら、いなくなっちまうんだ。

(” 3005 “)

15巻・73項の脚本に加え、それぞれの項に数十秒間のヴィジュアル (動画) が添えられ、主人公The Boyをドナルド自身が演じていることもあり、アクターとしてのキャラクターになりきるスキルがコンセプト・アルバムの世界観を作り出すのに大きく影響しています。
近年の優れたコンセプト・アルバムといえば、ケンドリック・ラマー『g.o.o.d kid m.a.a.d city』が思い浮かびますが、「世界観の作りこまれ方」「登場人物の心理的描写」に関してこちらの作品が優れていると感じます。「アトランタ」をすでにご覧になっている方は彼の作品が醸し出す「独特の雰囲気・空気感」をご存知でしょうが、このラップ・アルバムの持つ雰囲気や描写も同様に間違いなく彼にしか生み出せないものなのです。

彼は「コメディ・ラッパー」時代、ドレイクとの比較を受けたからこそ、自分のラッパーとしてのアイデンティティを模索し、ラップ・アルバムの中に「脚本」を作り上げ、自分で演じきるという、彼オリジナルの形でのコンセプト・アルバムを作り出したわけですね。

この作品の脚本・楽曲の和訳・解説は全て当メディアにて掲載しているので、ぜひお時間あるときにチェックしてみてください!

→ 【ストーリー全訳・全曲和訳】Because The Internet – Childish Gambino

『アトランタ』 / 『Awaken, My love!』

セカンドアルバムのリリースから約2年後の2016年、彼はテレビ・シリーズ『アトランタ』をスタート。MV、『Because The Internet』のビジュアルのプロデュースを担当した日本人フィルム・メイカー、ヒロ・ムライと共に監督・脚本を務めています。

彼が生後すぐ移り住み、育った街アトランタは今アメリカで最もヒップホップ・ラップのアツい街だとされています。
そんなアトランタを舞台にラッパーとして成り上がっていくというストーリーがこの作品では描かれているのですが、肝心の主人公ドナルドはラッパーではなく、
ラッパーの「マネージャー」として出演しています。

彼と仲間たちが過ごすダウナーな日常の中に見え隠れする、不条理かつシニカルなユーモアが連続する物語は、ヒップホップのカルチャーや、アメリカ国内の空気感を知る人なら楽しめない人はいないでしょう。
実際にゴールデングローブ賞、エミー賞を獲得するなど映像の世界でドナルドの知名度をグッと押し上げた作品となります。

すでにシーズン4まで製作が決定しており、日本ではシーズン2「略奪の季節」まで配信されているので、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。

ドラマでも大きな評価を得た彼でしたが、音楽でもその躍進は止まりません。
3年ぶりにリリースされた3枚目のアルバムAwaken, My Love!』は、ユーモア溢れるパンチラインを連発していたあの頃のガンビーノの面影を忘れてしまうほどに、ヒップホップのサウンドとは異なる歌唱力を前面に押し出すファンク・アルバムに仕上がっていたのです。
ゴスペルの雰囲気も感じさせるコーラスや、ソウル・ファンクのレジェンド、アイザック・ヘイズ “ The Look of Love “をサンプリングした” Redbone “など、誰も予想しなかったガンビーノのクリエイティビティに私含め、多くのファンが驚いたことでしょう。
このアルバムで彼は初のグラミー・ベスト・トラディショナル・R&B賞を受賞することとなります。

This is America / 止まらないエンターテイナー

アトランタのシーズン2が配信開始され、監督・俳優業で多忙を極めていることもあり、音楽活動を再びスタートさせるには少し時期尚早だと思われていた20185月、「これがアメリカだ」と題されたシングル” This Is America “を突如ドロップ。すでに多くのメディアが 解説 なされておりますので、内容については割愛させていただきますが、この作品はビデオが特に衝撃的だったんですね。

アメリカ社会に存在する表面と、裏面を告発したとも言える内容の作品は、1ヶ月で2億回再生を超え、グラミー主要2部門を受賞。
こちらもヒロ・ムライがビデオのプロデュースを行ったことで日本でも大きな話題となりました。
彼のキャリアを見直すと、アトランタ以来、彼は確実に社会的なメッセージを私たちに伝えようとしていることがわかります。

2ヶ月後にリリースした” Feels Like Summer “ではカリフォルニアの急激な気温上昇・地球温暖化について言及するなど、アメリカだけではなく、私たちにも関係のない話では当然ありません。
自分のアイデンティティに悩むコメディー・ラッパーは、成長を続け、現代のアメリカ社会、そして世界に最も影響を与える
アーティストの一人となったわけですね。

学生時代熱中していたと言うスターウォーズ・シリーズ「ハン・ソロ」に出演、映画ライオン・キングのシンバ役の声優を務めるなど、知らない人はいないほどの超ビッグネームに立て続けに出演。
もはや盟友的な存在であるヒロ・ムライが監督を務め、リアーナがヒロインを演じる『Guava Island』を共同製作、主演として出演するなど、その活躍は止まることを知りません。

音楽・映像作品でどちらも大きな成功を果たし、最近では社会的なインパクトという面で見ても、有数のアーティストとなった彼。
自らが役者であり、監督でもある、そして表現したい思いを広く届けることができる「音楽」という媒体も持ち合わせる彼が「稀代のエンターテイナー」と言わずして何と言うでしょうか。
しかも彼はただ単に人を「楽しませる」だけではないのです。

「エンターテイメント」を通じて、社会では何が起きているのか、どんな問題が起きているのかを伝え、人々の間で「何となく」消化されてしまっている出来事を作品を通じて喚起する。
そのエンターテイメントの中には確かに届けたい「メッセージ」が存在していて、それこそが彼にしか出来ない表現であるのではないでしょうか。
どんな媒体であれ、これかも彼の作品が楽しみでなりません。

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