Kevin Abstract GQ Rick Rubin

GQ

Kevin Abstractが抱える不安と自信の欠如
「自己表現」と「自分勝手」の間にある葛藤を語る

MARCH 14 2020

アメリカ・LAを拠点に活動するボーイズ・バンドBROCKHAMPTON(ブロックハンプトン)の設立者・リーダーであるKevin Abstract(ケヴィン・アブストラクト)は、グループでの活動、個人としての活動共に、ここ数年で大きな成功を手にした。

Kanye Westのファンサイトのフォーラムから結成されたというデジタル世代によるクリエイティブ集団は2015年からその名前を背負い活動を開始。その来歴は元より、ジェンダー、音楽ジャンルといった規定の概念に縛られることのない自由なアートを生み出す集団として大きな注目を集めた。『iridescence』では全米1位を獲得するなど、その実績と人気は極地的なものではなく、間違いなく世界へと広がり続けている。そんなグループを指揮するKevin自身も昨年ソロ・アルバム『Arizona Baby』をリリース。まさに絶好調。そう見えるのは当然かもしれない。

しかし、彼の言葉は明らかに不安げだ。
RCA Recordsとの契約を果たし、成功を収めたアーティストがDef Jam Recordingsの創設者Rick Rubin(リック・ルービン)との対談で口にした言葉は多くの葛藤に溢れていた。約50分の対談で彼は現在の心境をどのように語っただろうか。その言葉を参照しながら考察していこうと思う。

・人気を得たからこそ感じる「義務感」と「危険」(2:30-)

俺は今とてもユニークで、恵まれたポジションにいる。俺はその利点を生かすべきだし、今この瞬間に何か意味のあることを発しているということは明確にしたい。俺は自分が「幼い頃に寄り添って欲しかったような音楽」を作りたいんだ。

一方で、その「義務感」は危険にもなりうると思う。俺の過去のベストな作品は生活をする上で必死にサバイバルしていた経験を元に生まれてるから。今は恵まれた環境にいるから、それは(制作において)危険だと思う。

Kevinの目的は明確だ。「俺の母親はホモフォビア」そう“ Miserable America ”のリリックで彼が語るように、彼は幼い頃から「共感できる何か」を追い求め、現在はその何かに自身がなろうとしている。

ここで見える彼の不安は「恵まれたポジション」にいることをネガティブな「Dangerous – 危険」というワードに言い表していることだ。このネガティビティは彼がこの対談でいかに正直に物事を語ったかの証明でもあるのだが、アーティスト、グループとして手に入れた成功と状況の変化を不安として受け止めている。

・彼を襲う「不安」と「自信の欠如」(5:00-)

思い浮かんだアイデアをボツにしてしまうことが増えてるんだ。その理由は俺自身がアーティストとして以前より不安を抱え、自信を失くしているからだと思う。

最初の3作は、俺たちの「Self Expression – 自己表現」が元になって生まれてる。それは誰も俺たちのことを気にかけていなかったからだ。みんな自由だったし、魔法のような瞬間だったと思う。

最近は、それを取り戻すため、毎週金曜日に色々なアーティストや友達を40人ほど招いて、一週間の間に何があったかを話す「フライデイ・セラピー」を開いているんだ。コミュニケーションや、対話が俺たちを「なぜ音楽をやるのか」というルーツに引き戻してくれると思うから。最近はShia LaBeoufとも友達になってね。彼は俺の一番のインスピレーションだ。彼も毎週金曜にセッションをガイドしてくれてる。最初の金曜日には曲も作ったしね。

最初の三作とは、おそらく『SATURATION』シリーズのことを指す。「その頃は誰も俺たちのことを気にかけていなかった」という発言からもわかるように彼はリスナー / オーディエンスのことを以前よりも強く意識するようになったのだろう。「聴く人」を想定したからこそ、彼は自分自身の持つ観点を音楽に乗せること、つまり過去の作品で為してきたような「自己表現」にネガティブな側面があるとも考えている。

・制作における変化と葛藤(0:50-)

制作は変わらずベッド・ルームで作ってる。変化したのは、自分が歳を取ったこと、ツアーを通じて色々な世界を見てきたこと。つまりサウス・セントラルやテキサス以外の場所で過ごしたことだね。
俺はそういった場所で閉じられた観点から曲を作っていた。限られた観点から音楽を作ることが自分自身の問題を生んでいるのかもしれないね。

俺はそんな自分の作品が100%好きとは言えないんだ。それは、ある種「Self Indulgent – 自分勝手」とも言えるから。

BROCKHAMPTONはテキサス州サンマルコスで結成、その後、拠点をLA(サウス・セントラル)に移し、活動を行なってきた。世界を飛び回りツアーを行う現在と、数年前を比べ、明らかにその視野が変化したことは間違いないが、私たちリスナーはまさに彼自身の考えや、彼自身の観点から綴られる言葉に魅了されてきたはずだ。しかし、彼はそういった自身の経験を元にした過去の作品を「Self Indulgent – 自分勝手」であると語る。

・音楽を通じての自己表現は「セルフィッシュ」である (8:20-)

フライデイ・セラピーは参加者全ての人の声に耳を傾け、全ての人の持つ観点から物事を考える催しだ。「Empathy Exercise – 共感運動」とも言えるかも。俺は自分以外の誰かの何かについてを考える方法を探していたんだ。

それを考えると、音楽の制作は本当にセルフィッシュなように感じるんだ。リリックを見ればわかるけど、そこには自分の母親や姉妹に対する共感はない。それに対して今は後悔や懺悔の気持ちがある。

ライブに行けばファンのみんなが俺のリリックを歌ってくれる。彼らが「知らない家族のこと」を歌ったリリックをね。ファンにとってその登場人物はキャラクターだけど、俺にとってはリアルな人間だ。やっぱりそこに懺悔の気持ちが生まれる。

過去の経験を元にしたリリックを書くと、心がスッキリするんだ。でも全てのストーリーをそこに描くことはセルフィッシュだとも感じる。そこにあるのは俺の一方的な観点から描いたストーリーだよ。「スッキリする」という恩恵はそこから生まれるんだ。

インタビューの内容は前後しているが、まさに彼はここで「自己表現」と「自分勝手」の間にある葛藤を抱えている。セラピーとしての自己表現は「スッキリする」というある種の開放感をもたらすが、一方的な考えを世界に発信することで「自分勝手」にもなりうるということだ。

Kevinがフライデイ・セラピーを始めた理由は「自分以外の誰かの観点に立って、物事を考えたいと思った」からだ。先ほどの“ Miserable America ”における母親の立場に立てば、Kevinのリリックは一方的な意見になる可能性もある。彼がここ数年で特にグループのメンバーたちと対話を重ね、ぶつかりながらも、それぞれを理解しようとしてきたことが垣間見える。フライデイ・セラピーなどの活動を通して、広い視野を持っている彼だからこそ、こういった葛藤を抱えることにもなったのだろう。

しかし、自分以外の誰かの立場に立つことで、正直な意見を発することができないのは時に問題を生む。Kevinの場合は、グループとして作品を制作する時こそがその時だ。

・自身を装うこと。マスクを着けること。(13:25)
・自分らしくあること(19:30)

俺は「勇気」を見つけ出す必要があるかもしれない。(正直な意見を)人に話すことは常に難しいよ。リーダーでいるのは難しい。自分に自信がないから。だからみんなが曲を作っている部屋に入るのは「快適」とは言えない。その感情が何なのかはわからないけど。

(今までの人生において(自分を装う)「マスク」を付けずに関わることのできる人はいたか?と尋ねられ)
ないね。例え、自分一人でもマスクをつけてる。自然にね。おそらく、子供の頃に教えられたことが影響しているんだと思う。人前で演技することだね。

彼は自分が常に「何者か」になろうとしていると明かす。この「理想の自分」と「現実の自分」の間のギャップが、彼の「リーダーとして自信がない」という発言にも繋がってくるのかもしれない。過去のインタビューでの発言を参照しても、彼の中には度々グループのリーダーでいることの葛藤や我慢が見える。

・Ameerの脱退から失くした自信(34:00)

Ameerの脱退は本当に辛い出来事だった。14歳の頃からの仲間だったから。それも人前でクビを切るわけだから、毎日そのことを考えた。彼が恋しいね。俺たちは兄弟のようだったから。でも決断に後悔はないよ。

アイデンティティ・クライシスみたいだ。自分が何者で、何を理由に音楽をしているのかがわからなくなった。

そう感じ始めたのは間違いなくAmeerの脱退からだ。それ以来リーダーとして、アーティストとして不安になった。「俺は制作において何ができるんだ」とね。

Ameer VannはBROCKHAMPTONの設立メンバーであり、Kevinとは高校の頃からの親友。2018年春に性的虐待を告発され、グループから事実上の解雇宣言を受けた。この出来事を経て、彼がなぜ「リーダーとして不安になったか」は語られていないが、「自分の力のなさ」のようなものを痛感した、ある種のトラウマ的な体験になっているのだろう。

しかし、彼は今までのような内省的な作品が「自分勝手」とも言えるというのを理解した上で、リアルでパーソナルな内容を作品に込めることを変えない。彼が変えるのは、そのサウンドとアプローチの方法のようだ。

・シリアスなテーマをコメディに変える(33:30)

今はとてもパーソナルな内容を曲として「楽しい形」に落とし込んでるよ。作品はトラウマを元に生まれているけど、曲自体はダークではない、ドライブをしたり、晴れの日に楽しむ感じの曲なんだ。それを作るのが今の目標だね。

リアルで正直だけど、盛り上がる曲だね。まさにコメディと似ているかも。

・「自分勝手」な自分の作品と、『IGOR』の距離感 (45:30)

17歳の頃に書いていたリリックは全てでっち上げだった。ファンタジーだったんだ。今はそうしてない。でもパーソナルなことを書いて、サウンドもイケてないとそれは最悪だ。気まずいことになる。

面白いのはタイラーのニュー・アルバムだよ。全ての曲が同じテーマに沿っているけど、彼は話し方を変えている。全ての曲がリスナーにとって興味をそそられる形になってるんだ。
そこから考える俺の問題は、同じテーマに沿っているけど、どこか「自分勝手」か「退屈」に聞こえるんだよ。彼のアルバムを聴いてから、そこにフォーカスしようと思ったんだ。

例えば、BROCKHAMPTONのライブはその内省的なテーマとは裏腹に大いに盛り上がりを見せる。そのサウンドはトラウマや、自分たちの中にある複雑な葛藤、アイデンティティからくる悩みを熱狂的なものに変換させているのかもしれない、とライブやこの発言からは考えられる。

ここで彼が語った自身の作品とタイラー・ザ・クリエイターの『IGOR』の違いについての発言も、明らかに聴き手を意識したものだ。ここの発言はネガティブなものというよりは、謙虚な向上心が込められたものであり、現在制作中の作品もまさに、その目標に沿った内容となっているようだ。

・現在製作中の作品について(22:55)

BROCKHAMPTONの5枚目のアルバムに取り掛かってるよ。サマータイム・ミュージックって感じのやつさ。
最近は作れていないベターなコーラスにも挑戦してるし、よりメロディックな作品になるはず。

・5年後10年後のゴール (24:20)(43:20)

クレイジーなのは12歳の時の方が明確にわかっていたことだよ。今は全くわからないね。今は本当に色々なことがしたいし、アーティストとして同じことをしたくなくなるかもしれないし。

12歳の時にはただ、音楽を作って、カリフォルニアに友達と何人かで暮らすことを夢見てた。シンプルだよね。

グループが常に変わっていくというアイデアも持ってるよ。いつか、5年とか10年後とかかな。今いるメンバーが全てグループから脱退して、全く新しい人たちが加入する。そしてBROCKHAMPTONの名前で音楽をリリースしていくんだ。ゆっくりメンバーが増え、メンバーが去りを繰り返していくんだよ。

ネクスト・プロジェクト、数年後の目標など楽しみな情報も語られたが、今回のインタビューには全体を通して明らかな「不安」や「迷い」のようなものが見えた。それは何か特定のプロジェクトにおける不安ではなく、彼の中にある(主にAmeerの脱退後)慢性的なもののように思える。しかし、Kevinが語るように彼らの音楽はそういった「不安」や「トラウマ」のようなものを原動力としていることも事実だ。

この対談を通してふと感じたのは、Kevinがラスト・ネームに「アブストラクト」という名前をつけるのは、誰にも本音を語ることができず、自分以外の何者かを装うためのマスクをつけている、その曖昧なアイデンティティを表しているのかもしれない、ということだ。自分と同じような「自身を偽ることを良しとされた」若者たちに寄り添う、そんな音楽を作りたいという目標も、その経験や原動力とリンクしてくるだろう。

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