今回のミックスには新しく4曲が収録されている。イントロから続いて滑らかなスクラッチで始まるのは、先行リリースされた「SWS feat. D.D.S & MULBE」。プロデュースはDJ SCRATCH NICE。ゲストに迎えたD.D.S と MULBEはラップデュオ “N.E.N” としても活躍し、それぞれMCバトルの出場歴も多い実力派MCだ。そんな2人とBESが組んだこの曲は、堂々とした力強いアティテュードの中に少しの哀愁を感じる、ミックスアルバムの始まりにふさわしい1曲である。
雨に打たれてもバイブスは発火 外は嵐でも気にせず着火 この雨を金に変えるのが俺たちのジョブ やり続ける ― BES / SWS feat. D.D.S & MULBE
BESの作り出すフックは毎回力強く、それでいて思わず被せたくなるようなキャッチーさを兼ね備えている。このフックは俳句的な、日本人に刷り込まれた音数の気持ちよさを感じる。
6曲目の「美学、こだわり feat. MEGA-G」も今回新しく収録された新曲だ。プロデュースはBES 、I-DeAの連名。今までも幾度となく組んできたMEGA-Gとの新たな1曲は、くぐもったウッドベースの渋い音が特徴的。無骨でジャジーなビートにBESとMEGA-Gのラップが乗れば、さらに深みのある大人の魅力が溢れ出る。
フックももちろん「美学と書いてこだわりと読む」などのパンチラインにしびれるのだが、あえて注目したいのはBESによるフック前のヴァースだ。
鼓膜揺らすくらい太いベース 一言一句純度はフリーベース ビートの上を泳ぐ自由自在に 押し付けではなく耳に自然に シェフとBESのこだわり香ばしい ― BES / 美学、こだわり feat. MEGA-G
このシンプルなビートだからこそ、リスナーが感じることができる音の純度や心地よさを、畳み掛けるように紡いでいる。フックまでの間に気づかないうちに自然に助走がついている。なるほど、BESとMEGA-Gならばこんなひたすらドープなビートも美味しく料理してくれるはずだ、と思わされる。
この曲から自然なテンポで繋がるのが、新しく収録されたSCARSの名曲 「MY BLOCK」 のBESによるリミックスだ。SCARSの2ndアルバム「NEXT EPISODE」にBESが参加していないことは周知の事実だろう。今回そのアルバムのビートにBESがヴァースを乗せたのは、SCARSファンならば胸が熱くなる出来事ではないだろうか。原曲ではサウスサイド川崎の地名がいくつか登場しているのに対し、今回のリミックスの舞台は東京。BESがどのようなハスラー生活を送っていたのか、画で想像できそうなほどリアルに描いている。原曲と合わせて聴きかえしたい1曲だ。
14曲目は意外な組み合わせの新曲「Make so happy feat. BIM」。プロデュースはK.E.M。BESとBIMはラップや楽曲のスタイル、年代ももちろん違う。それでも違和感なく、むしろ新鮮な化学反応が起こしているのがこの楽曲だ。それまでハードで緊張感のある楽曲が続いていたが、この曲は多幸感と清涼感が合わさった仕上がりになっていた。また、リリックも他の楽曲はハスラーライフや自身の確固たるスタイルを表現しているのに対し、この曲はもっとメンタル面のことを、それも前向きな気持ちで描いている。まさに「Make so happy」というタイトルの通り、幸せになるためのポジティブなマインドを感じる。BIMの歌うようなメロディアスなラップもこのミックスアルバムには新鮮。BESとBIMがそれぞれのスタイルに歩み寄り、世代関係なく純粋にいいものを作っていることに勝手に胸が熱くなった。
22曲目に収録されている「表裏一体 feat. B.D.」はB.D.を客演に招き、今回新しく収録された新曲。プロデュースはDJ SCRATCH NICE。意外なことに、BESとB.D.が二人でしっかり曲を作るのは今回が初めてだそう。
裏と表 保つバランス お金はないがあるのはゆとり 自分の力 身の丈の言葉 吐き出した結果 表裏一体 自分とファイト ジョークじゃない ほろ苦いライフ へっこんだマイク ― BES / 表裏一体 feat. B.D.
しっとりとした落ち着きのあるビートに、街中に潜む光と影や自分の中の裏と表を表現している。生きていく中ではほろ苦いできごともあるが、自分の中にある裏と表のバランスを保ち、自分と戦い続けていく、等身大の彼らの姿が現れていた。
最後、SHIZOOの「たしかに feat. BES」は、このミックスアルバムを締めるにふさわしいエモーショナルな1曲だ。ストリーミングサービスでもこの原曲はリリースされておらず、恥ずかしながら私自身もこのミックスアルバムでこの曲の存在を知った。
真剣に音とトピックに向き合ってきたBESだからこそ、妥協のないリアルなリリックを作ることができたのだろう。彼が妥協せずに貫いてきた美学の積み重ねが、今の彼のスタイルを形作っている。
P-Vine