BES ISSUGI

P-VINE RECORDS

BES & ISSUGI -『Purple Ability』
これこそがHIP-HOPと言わざるを得ない説得力

July 08, 2020

2018年の『VIRIDIAN SHOOT』から早2年。SCARS / SWANKY SWIPE としての活躍で知られる JAPANESE HIP-HOP の重鎮、BES と、今年リリースしたアルバム『GEMZ』も記憶に新しい、MONJU / Sick Team のラッパーである ISSUGI のジョイント・アルバム『Purple Ability』が先日リリースされた。 


P-VINE RECORDS 

プロデューサー陣には前作同様、Gwop Sullivan、DJ Scratch Nice、Gradis Nice、そして 16FLIP。また新たに、DJ Fresh、Fitz Ambro$e、Endrun らが参加し、新たな世界観のビートを持ち込んだ。気になる客演は、MONJU から仙人掌とMr.PUG、SCARS からSticky が参加し、二人の作り上げるドープな世界観に加わった。前作よりも重みと勢いのあるビートを多用しており、リリックでもリアルなハスラーライフを感じることのできる、聴き応えのある1枚となっている。

日本のBOOM BAPシーンを背負って立つ2人 

殺伐としたイントロと極太のビートに、「ぶっといメンタルとぶっといジョイント 我ら BOOM BAP の猛者 聞こえてるか what’s up?」という凄みのある BES の掛け声で始まるこのアルバム。ありきたりな言葉になってしまうが「これこそがヒップホップだ」と叫ばざるを得ない感覚に陥る。 

 “ 重低音はドイツ車よりあつい 悪いが墓に埋める 演奏なしの言論 BESとISSUGI S NICEと16 dream teamの中のdream team for real ” – ISSUGI / SoundBowy Bullet 

 “ 意味と意義があるライムで勝負 的外れのボンボンほんと大丈夫? 俺らに任せな 濃いめのやつ 耳をつんざく切れ味の良さ ” – BES /  大丈夫? 

 一つ一つのヴァースに痺れるような渋さを纏い、流行のシーンとは一線を画すような飾らないスタイルを持ったリリック。日本のアンダーグラウンド・ヒップホップを背負って立つ2人への信頼感が感じられるラインが続く。 

 “ マインドも変えてくれたこの音楽 すべてをそこに集中 金を生む 俺は粉よりあついスープすする 余計なこと言わず前に進む ” – BES /  SoundBowy Bullet 

 “ 時間ください 借りは必ず返すバースで表現 俺なりのアンサー やることやればなんとかなる 浮つかないようペンを走らす ” – BES /  明日への鍵 

踏むアクセル 雨降る東京 濃い霧でも方位失わずにGoing 最初に言葉を書いた気持ち 伝わったときの嬉しさ ” – ISSUGI /  明日への鍵 

またこの2人も音楽に救われた者であり、ISSUGI は常に制作が生活と共にあり、BES も犯罪に手を染めたとしても最終的には自らの音楽が生んだカネによって生活が出来ているという、ヒップホップに対するリスペクトと感謝が感じられる。 


P-VINE RECORDS

殺伐としたビートとリリックの変化 

前作の『VIRIDIAN SHOOT』ではファンキーさや軽やかさを同時に持った、跳ねるようなビートが目立った。リリックも、ラップでカネを稼ぎ続ける、職人気質な生活のことや、東京の街を二人の持つ独自の視点で俯瞰するようなものが多い。  

一方、今作はテンポも少しスローになり、不穏な雰囲気と共に圧倒されるようなドープネスが大きく増したように感じる。このビートの変化はリリックにも大きな影響を与えているようだ。 

“ 誰かが泣いて 悪魔が笑い つま先から全身へと回る 後ろの正面 照らしたライト ほらね あなたもジキルとハイド ” – BES / Hits a stick 

“ 悪魔は一瞬のスキを狙ってる 足元すくわれないように動く 悪魔はいつも俺の横で笑ってる 流されないよう深く根を張る ”  BES / Trap to Trap 

“ 臆病神に着いてくる罠 強くいねえと掛けられる罠 足元見て近づいてくる罠 甘いにおいで誘惑する罠 ないことには出来ない世の中 ” – ISSUGI / Trap to Trap  

特に BES のヴァースでは、ハスラーとして生きてきた中での仲間同士の“ 勘ぐり ”や“ 裏切り ”が感じられるようなラインが目立つ。客演に仙人掌と Mr.PUG を迎えたリード曲「Trap to Trap」にもあるように、仲間だと思って気を抜いたら足元をすくわれたり、誰かのトラップに騙されないように常に用心深くいる必要があったことが不穏な雰囲気のビートと共によく表れている。  

中でも BES による「Skit」では、当時の生活が実際の固有名詞と共に、きっと分かる人ならば分かるであろうリアルな思い出話として展開されている。 

“ 約15分後ようやく現れる よく分からない和菓子の紙袋と箱の梱包 「バッチリです」 焦らず急ぎ向かう養老乃瀧 外人と3人で1杯やり 店から呼ぶタクシー 乗車 戻るアジト 質も量もバッチリで お互い握手とニヤケヅラ ” – Skit / BES 

映画『花と雨』でのディールのシーンを思い出してしまうようなリアルさを纏ったリリックである。しかもこの後にすぐ客演に SCARS から Sticky を迎えたM12の「Inner Trial」へと繋がる。 

“ 分かるよあいつの住所だろ 10年経っても忘れられねえ 当たり前だろお前のやったこと 許せるわけねえあの出来事 被害は100万と60個 俺は忘れてねえぞカネコ ”  – Inner Trial ft Sticky / Sticky 

この「Skit」から「Inner Trial」の流れこそ、BES や Sticky のリアルな裏社会での生活のことを露骨なまでに顕にしており、リスナーとしても耳をそばだてて聴いてしまうような“ ヤバさ ”を感じてしまうのだ。このような少し危険な雰囲気のあるビートとリリックが前作との明らかな違いであり、今作の魅力の一つと言うことが出来るのではないか。   

このアルバム全体を通して90年代のNYを感じさせるような、危険な雰囲気の中に哀愁のようなものが漂う、大御所だからこそ出せる迫力と確かなスキルがあった。  

この2人による最強なタッグと間違いなく聴き応えのある作品を早くフロアで見たいと願うと同時に、早くも3作目に期待してしまっている自分がいることに気がついた。 

P-VINE RECORDS

Credit

Writer : 谷田貝 みのり

日本のアンダーグラウンド・ヒップホップ、海外のG-FUNKを特に好む。WEBメディアの編集をしつつ、音楽について執筆する日々。渋谷と川崎によく出没する。 (IG : @minorigaga)(Twitter : @minori_yata

RELATED POSTS

NEWS

FEATURE

LATEST LYRICS

©︎ SUBLYRICS, 2020, All rights reserved