Beyonce Black Is King

USA Today

『Black Is King』
ビヨンセが語り継ぐ、誇るべき歴史と物語

August 07, 2020

昨年夏に公開されたディズニー映画『ライオンキング』、『アイアンマン』や『ジャングルブック』などの映画監督にして、俳優としても活躍するジョン・ファブローの手によって、言わずと知れた1994年の同名のディズニーアニメ映画をフルCGでリメイクした作品である。

誰もが知っているこの題材を、再び語りなおすにあたって、話題になったのはそのキャスティングと音楽だ。
主人公のシンバの声にチャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローバー、そしてヒロインのラナにビヨンセがキャスティングされ、二人が歌うオリジナル版の楽曲群に加え、挿入歌にビヨンセによる新曲「Spirit」も加わったのだ。アフリカ音楽にルーツを持つ現代のヒップホップジャンルの音楽を代表するような二人が、アフリカンミュージカルの神話とでもいえるような『ライオンキング』の物語に合流したのは必然ともいえるだろう。

さらに話題になったのが、ハンス・ジマーが手掛けるスコアが収録されているオリジナルサウンドトラックとはまた別の、その後ビヨンセが制作したインスパイアアルバム『The Lion King: The Gift』だ。例えば、劇中で流れる楽曲が4曲ほど収録されつつも、そのほとんどがオリジナル楽曲で構成されたケンドリック・ラマ―による映画『ブラック・パンサー』のインスパイアアルバム『Black Panther The Album』(2018) や、HBO制作の大人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にインスパイアされ、ザ・ウィークエンドやシザ、トラヴィス・スコットなどが参加し制作されたアルバム『For The Thrones』(2019) など、ラップミュージック、ないしはR&Bミュージックのスターが、映像作品にインスパイアされたアルバムを手掛ける例は最近になっていくつかある。

この『The Lion King; The Gift』にも、ジェイ・Z、ファレル・ウィリアムス、ケンドリック・ラマ―、そして勿論チャイルディッシュ・ガンビーノなど、豪華なアーティストたちが参加している。現代において、『ライオンキング』の物語をベースに、ルーツであるアフリカの景色に立ち返るようなこの作品は、アルバム作品の時点で壮大なスケールを物語っていた。

そして、今年の7月31日、このアルバムをベースとしてゴージャスに作り上げた映像作品がディズニープラスで全世界に配信された。それが『Black Is King』である。製作期間に一年をも費やしたこのプロジェクトは、ヴィジュアルアルバムとして、ビヨンセの描く物語を壮大に語る。

ビヨンセのもとに集ったクリエイターたち

元々ビヨンセが主導となって動いていたこの映像プロジェクトには、ビヨンセ自身も監督に名を連ねている。今までも、自身のいくつかのミュージックビデオや、昨年、NETFLIXで公開された『HOMECOMING』ですでに監督業をこなしている通り、ビヨンセは自身の映像作品に今までも積極的に関わってきた。

そんな中で、今回の作品は彼女の中でも、最も大きくクリエイティブな仕事だったに違いないと思わせる。その証拠に今回の作品にはビヨンセのほかにも共同監督のチームとして7人の映像クリエイターが参加している。そのうちのほとんどが過去にミュージックビデオなどでビヨンセと仕事をしたことのあるクリエイターたちだが、その中でも過去に特徴的な作品を撮っている人物が二人いる。

一人はガーナ出身のBlitz Bazawulue。実は映像作家として活躍する傍らラッパー、作曲家(アーティスト名義はBlitz The Ambassador)としても活動している人物だが、そんな彼の撮った『The Burial of Kojo』(日本語タイトルは『コジョーの埋葬』)という映画作品がある。
一人の少女の語りを通して、少女自身が生まれる前から幼少期にかけての、ある家族と父親の物語を描く今作は、特徴的な構図の映像と、現実と幻想の間をさまようような不思議な世界観が印象的な作品に仕上がっている。

この作品は、例えば、昨年NETFLIXで日本でも公開された、セネガル映画『アトランティックス』(こちらも現実と幻想を行き交うような不思議な作品だった)もあるように、近年西アフリカの諸国から、才能のある若手の映像作家が、作品を放っているといった流れの中の一本であるとも言えるだろう。そんなこの映画で描かれる「アフリカ文化の中での家族の物語」が今回の『Black Is King』が描いているものと微かに重なるのはもちろん、この映画の登場人物である父親と叔父の関係性(兄弟間の確執)とその展開は、『Black Is King』のベースとなっている『ライオンキング』の物語を僅かながら彷彿とさせる。

二人目はサウスロンドン出身のJenn Nkiru。ブリティッシュ・ナイジェリアンである彼女は監督第1作目の『En Vogue』というショートフィルム作品で、現在撮影監督として、映画『メッセージ』や『ハン・ソロ スターウォーズストーリー』、NETFLIXドラマ『僕らを見る目』などで大活躍しているブラッド・フォード・ヤングや、スパイク・リー監督の『クルックリン』をはじめとする映画作品の撮影監督であり、つい先月もカニエ・ウェストとトラヴィス・スコットによる新曲「Wash Us In The Blood」のミュージックビデオを監督し話題になったアーサー・ジャファとすでに共に仕事をしていた人物である。

そんな彼女が監督2作目として撮ったのは『Rebirth is Necessary』というショートフィルム作品。ウェブメディアNOWNESSのBlack Starというビデオチャンネルシリーズの最後のエピソードとして撮られたこの作品は、ジェームズ・ボールドウィンをはじめとするアフリカ系の偉人たちの言葉の引用と、様々な映像のコラージュによって、アフリカ系の人々の歴史と文化を描く作品になっている。様々なレファレンスにあふれるこの作品は、黒人の人々の文化を過去から現在、現在から未来につなげ、その豊かで今に繋がってきた歴史を誇り、まさに映像中にも声として収められる「ブラックイズビューティフル」にも通ずるようなメッセージを掲げる作品になっている。

この主題は、作品のつくりや語り方は違いつつ、今回ビヨンセが『Black Is King』でやろうとしたテーマにもつながる。因みに彼女はビヨンセとジェイ・Z夫妻のコラボユニットTHE CARTERSの楽曲「APESHIT」のミュージックビデオの製作チームにも参加している。

このように、今回の『Black Is King』のテーマと少なからず共振するような作品を過去に撮っているクリエイターたちが中心となって今回のプロジェクトに集まっているのは偶然ではないだろう。

その他には、ドナルド・グローバーの『アトランタ』や『GUAVA ISLAND』の脚本にも参加しているIbra Akeや、ビヨンセ以外にも、アデルやアッシャーなどのミュージックビデオも手掛けているJake Navaなども監督に参加している。

さらに、撮影監督の一人に、前述した『The Burial of Kojo』でもBlitz Bazawulue監督と組んだMichel Fernandezが参加していることや、プロダクションデザイナーの一人に映画『ブラックパンサー』や『ムーンライト』にも参加したHannah Beachlerがいることなど、ビヨンセと直接交流のある人だけでなく、さらにそこから広がる様々な人脈によって、アフリカ系の文化から生み出された近年の作品群において、それぞれの分野で活躍する人々を制作チームにそろえているのだ。

BLACK IS KING

ビヨンセが語りなおす「サークルオブライフ」

前述した様々なクリエイターたちが協力し、ビヨンセの世界観を作り上げた今回の『Black Is King』。様々なアフリカンアートが全編に散りばめられた今作が描こうとしたものは何だったのだろうか。

まず、アルバム及び今回の映像作品のメッセージのベースとなっているのは先にも触れた「ブラックイズビューティフル」という言葉だろう。この言葉は元々、1950年代から1960代の公民権運動の中で、主に1960年代後半に盛り上がった、それまで白人に差別され貶されてきた黒い肌をはじめとするアフリカ系の黒人の人々の身体的特徴を、寧ろ美しく誇り高いものとして主張する運動のスローガンであるが、これは『Black Is King』で一貫される、文化、歴史、そして自らの人種を、いつの時代も素晴らしいものとして誇るというテーマと通ずる。

その中でも、「ブラックイズビューティフル」のメッセージをストレートに歌う楽曲の一つが「Brown Skin Girl」だろう。すべてのアフリカ系の女性、そしてこれから大人になる少女を讃えるような楽曲であるこの曲の映像では、歌詞中で言及される、アカデミー賞女優のルピタ・ニョンゴ、スーパーモデルであり女優としても活躍するナオミ・キャンベル、そしてビヨンセと同じ元ディスティニーチャイルドのケリー・ローランドが、それぞれの歌詞の部分で出演を果たし、その美しさを体現する。

Brown skin girl
Your skin just like pearls
The best thing in the world
I’d never trade you for anybody else, singin’

そんなテーマの中で、オープニングのインタールードとして流れる『ライオンキング』のムファサのセリフにも出てくる「命の輪(サークル・オブ・ライフ)」という言葉も今作の重要なモチーフになっている。映画『ライオンキング』の有名なナンバーのタイトルにもなっているこの言葉の意味するのは、アフリカの野生の王国で、すべての命はつながり円の形を描いているという考え方である。

すべての生き物のつながり、生命の神秘を湛えるこの言葉を、ビヨンセはすべてのアフリカ系の人々のルーツ、文化、そして歴史に重ねる。それは、オープニングのインタールードから引き継がれる「BIGGER」という楽曲にも表れているだろう。

If you feel insignificant
You better think again
Better wake up because
You’re part of something way bigger
You’re part of something way bigger
Bigger
You’re part of something way bigger
Bigger than you, bigger than we
Bigger than the picture they framed us to see
Legacy, oh
You’re part of something way bigger

自分たちを大きな流れ(歴史)の一部としてとらえ、世界にとって重要な存在であると訴えかける。アフリカ系の人々の歴史や文化の尊厳、そしてその誇り高さを唱えているのだ。

因みに今作にはビジュアル的にも“輪”のモチーフが散見される。夜空で渦巻く星々、身につけられる金のリング、Shatta WaleとMajor Lazerが参加した楽曲「Already」のシーンでなされる、車が円を描くようにドリフトする様子と、金の輪っかに座るビヨンセが回るイメージのカットバック。

さらに、新しい命が生まれ、それを掲げるという、映画『ライオンキング』の作品全体の円環の構造を示すラストカットが、今回の『Black Is King』ラストカットでもオマージュされている。ヴィジュアルアルバムとして、こういったディテールのモチーフとのつながりも印象的な作品である。

このように、ビヨンセの解釈する「サークルオブライフ」とは、すべての歴史やルーツが今に繋がっているということだろう。そしてそれをアフリカ系の人々の壮大なバックグラウンドに重ね合わせ、彼女たちが育んできたものの豊かさと重要性を改めて認識し、それを誇りとして謳いあげる。それが今作のテーマである。そしてタイトルの『Black Is King』の“King”はそういった尊厳や力強さを象徴しているのではないだろうか。

そういう意味では、これまでの発言も含め、ビヨンセが黒人の人々や女性たちに発信してきたメッセージを考えると、より一層の説得力を持つ『Black Is King』というタイトルも含めて、現代における「ブラックイズビューティフル」にもつながる価値観の提示をこの作品で表現しているという言い方もできるかもしれない。

『Black Is King』が更新したもの

ところで2019年版の『ライオンキング』をご覧になった方々の中には、圧巻の映像美と豪華なボイスキャスト陣によるヒットナンバーのカヴァー、監督のジョン・ファブローの演出力など、評価されるポイントは様々にある一方で、現代でこの物語を語ることにおいて、オリジナル版にあまりにも忠実なため、物語や主題としてフレッシュなものを感じづらかった人が、筆者も含めて多かったのではないだろうかと思う。

現に海外のレビューを見てもそこをもって賛否が分かれ、技術と音楽のみが突出して評価されている側面もある。そうしたなかで、今回の『Black Is King』でビヨンセがやったことは、『ライオンキング』の物語のある種の「現代的な語り直し」でもあるのではないかと考える。1994年に『ライオンキング』で描かれた物語を忠実になぞりつつ、そこから、さらにテーマを広げ独自に解釈したアルバム作品、そしてそれを視覚化した『Black Is King』で、変化球ながらも新しい形のナラティブを獲得し、そのアップデートを見事にやり遂げたと言えるのではないか。

近年で言えば、アーティストと同時にコメディアン、俳優、脚本家でもあるチャイルディッシュ・ガンビーノが『アトランタ』や『GUAVA ISLAND』などの映像作品でも馴染みのクリエイターと組んでアウトプットをしていること以外にも、NETFLIXドラマ『ゲットダウン』をプロデュースするナズや、ティーンのドラッグとセックス、メンタルヘルスについてのテーマを描いたドラマ『ユーフォリア』をプロデュースするドレイクなど、アーティストが何かしらの形で映像作品に加わり制作するケースが増えてきている。

今回の『Black Is King』も、それぞれが自らのアウトプットの場、クリエイティブの場を限定するのではなく、様々なフォーマットを渡り歩く現代のポップカルチャーの流れの中にある作品でもあるとも言えるだろう。そういった意味でも、「ヴィジュアルアルバム」という形式で、ゴージャスに作り上げたこの作品は、ディズニープラスでの世界同時配信という公開も含めて、正に現代的であり、ゆえに必見のアートフィルムである。

BLACK IS KING

Credit

Writer : 市川 タツキ

幼い頃から、映画をはじめとする映像作品に関心を深めながら、高校時代に、音楽全般にも興味を持ち始め、特にヒップホップ音楽全般を聞くようになる。現在都内の大学に通いつつ、映画全般、ヒップホップカルチャー全般やブラックミュージックを熱心に追い続けている。@tatsuki_99

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