dolmite is my name

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『ルディ・レイ・ムーア』
その男はなぜ「ラップの父」と呼ばれるか

June 08, 2020

昨年、NETFLIXで配信された映画『ルディ・レイ・ムーア』(原題『Dolemite Is My Name』)はもうご覧になっただろうか?昨年のトロント映画祭で初お披露目され、アーリーレビューでも高評価、賞レースでも、ゴールデングローブ賞のミュージカル/コメディ部門で作品賞、主演男優賞にノミネートされるなど、各所で話題になったアメリカ映画である。

その内容の豊かさから今作を語る切り口は様々にある。主演のエディ・マーフィーというコメディ俳優の復活、全編に流れるR&B音楽、熱量の高い映画製作の物語、当時終わりかけていたブラックスプロイテーションムービーのムーブメント…。

しかし今回は、正にこの映画の題材になっているその人、ルディ・レイ・ムーアについて掘り下げていきたい。彼は、音楽活動から、コメディアン、そして映画製作者としても活動していく人物だが、同時に「ラップの父」(英語で“ Godfather Of Rap ”)とも呼ばれているほど、後のヒップホップカルチャーに大きな影響を与えた人物なのである。この映画では、主に1970年代を舞台に彼のコメディアンとしての活躍と、映画作りの過程が中心に描かれるが、その中にも、彼とヒップホップカルチャーとの深いつながりが秘められている。この記事ではそんな彼とヒップホップカルチャーの関係を見ていきつつ、なぜ「ラップの父」と呼ばれるに至ったかを考え、さらにそこから、映画の中に秘められた文脈を読み解いていきたい。

「ラップの父」の誕生

まずは、映画で描かれる以前からの彼のキャリアを簡単に振り返りたい。1927年、アーカンソー州フォートスミスで生まれたルディ・レイ・ムーアこと本名ルドルフ・フランク・ムーアのキャリアの原点は音楽活動だった。青年期からR&B音楽の先駆者ルイス・ジョーダンを崇拝し、自らもR&B歌手になることを夢見ていた彼は、ナイトクラブのダンサーや軍隊への所属期間を経て、歌手活動に踏み出す。ほとんどムーア自身が作曲を手掛けた一連のレコードは、カントリーソングをR&B調のテイストにしたような楽曲群だったが、歌手としての活動はなかなか芽が出なかった。

前述した軍隊時代にですら、基地の中でもパフォーマンスユニットに入り、仲間たちと基地の中のほかの軍人たちを楽しませていたほど、人前に出て人々を楽しませることを愛していた彼は、有名になるという夢を持ち、30歳を過ぎた1959年、ロサンゼルスに移り住む。そこでは、自分のレコードを売り込みつつ、Dolfin’s of Hollywoodというレコードショップで働き、夜はナイトクラブでパフォーマンスの司会を請け負って何とか生活をしていた。そこでも長い下積み時代を送ったのち、1970年、リコという人物とのレコードショップでの出会いをきっかけに、人生が一変することになる。

このリコという人物は、彼の働いていたレコードショップの周りを浮浪していた人物だが、彼が披露していたリズミカルな与太話に魅力を感じたムーアは、お金を出し彼のネタを録音させてもらう。そしてそのネタを自分流に少し手を加え、自分のネタとしてしゃべり方も含めて作り上げた。それが後に彼のキャラクターとなっていくDolemiteの誕生である。

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こうして彼は、ついに自分のパフォーマンスを録音したコメディアルバムをリリースすることになる。彼のネタは、レコードジャケットからもわかるようにあまりに過激で下品な内容ではあるが、それぞれの街の黒人コミュニティを中心に、予想以上に人々から聞かれ、ヒットしたのだ。

レコード店でのリコとの出会いから今回の映画は描かれているが、実際は映画で描かれる以前から長い下積み時代を経て、ロサンゼルスに辿り着き、ようやく成功したというわけだ。そして、あまりに長い下積み時代を送り、40代にしてようやく華が開いた彼のキャリアの中でも、リコという人物と出会って作ったコメディレコードは、後のヒップホップ史にとってとても重要なものとなる。

彼は「ラップの父」といわれている通り、ヒップホップの4大要素の中でも「ラップ」に影響を与えた人物である。もっとも、当時の活躍していた数々の芸人によって作られたコメディレコードの作品群は、ヒップホップ史的にもラップの原型だと一説でされているが、その中でも彼の作品はその代表的なものだとされている。彼の作った所謂コメディレコードとは、彼がショーでやるいくつもの「ネタ」をレコーディングし、一枚のアルバムに収めたものなのだが、彼の芸は、時にジャジーで、時にファンク調のサウンドのビートに、彼の韻を踏んだ語り(つまりライム)が合わさっているものだったのだ。ビートとライムのミックス、これこそがラップの原型だといわれている。

彼の作品製作の手法からもヒップホップカルチャーとのつながりのようなものがみられる。彼の初期のレコード制作は、アパートの一室(もちろん当時はお金がなかったからなのだが)でホームパーティーと称し、一定数の知り合いなどの観客を入れて、パフォーマンスを行い、それを観客のリアクション含めてレコーディングし、レコード化するというものだった。パーティーの様子を録音し作品化するというのも、DJのパーティーを録音し、それがミックステープとして共有されていた、初期のヒップホップ史との重なりを感じる。

そしてそれらは、ヒップホップの誕生ともいわれている1973年、ウエストブロンクスで行われたDJクールハークによるパーティーよりも前の出来事(つまりブレイクビーツ誕生以前)だったのである。

 

影響を受けたアーティストたち

2006年に復刻されリリースされた、ルディ・レイ・ムーアがプロデュースと主演した映画『Dolemite』(1975)のサウンドトラックのライナーノーツを書いたのはラッパーのスヌープ・ドッグだった。彼はその中でこうコメントしている。 

“ Without Rudy Ray Moore, there would be no Snoop Dogg, and that’s for real. ”

彼がいなければ自分は存在していない」とまで書いたスヌープ・ドッグをはじめ、後の多くのラッパーたちに影響を与えたルディ・レイ・ムーアは、彼らから絶大なリスペクトを受けている。

例えば、2Live Crewの中心的メンバーのルーサー・キャンベルは、レーベルに所属せず、自分でレコードを制作し売りさばいていた初期のムーアのやり方にインスピレーションを受け、彼自身も初期のころにレーベルではなく自分のやり方でレコードを売っていった。彼のムーアへのリスペクトは2Live Crewのアルバム『Back at Your Ass for the Nin-4』(1994) でルディの音源をサンプリングしていることからも表れている。彼らの曲の、下品なネタを面白おかしく、アッパーなスタンスでラップする内容も、ルディのネタから影響を受けているのではないかと思われる。

彼の音声が収録されているラップアルバムだと、ビッグ・ダディ・ケインのアルバム『Taste of Chocolate』(1990) がある。ケイン本人も自分の好きなものを詰め込んだスタンプブックのように作ったと言うこのアルバムに収録されている「Big Daddy vs. Dolemite』」にて、ルディ・レイ・ムーア自身がゲストとして参加し、ビッグ・ダディ・ケインとラップバトルを繰り広げている。

前述したスヌープ・ドッグも自身のアルバム『No Limit Top Dogg』(1999)にて、スキットに彼の映画『Dolemite』の音声を流している。さらに、近年のラップアルバムでは、ビッグ・ショーンのアルバム『Hall of Fame』(2013)収録の「Freaky」での『Dolemite』からの引用が大胆なものとしてあるだろう。他にも、挙げだすときりがないくらいだが、このように後年のラッパーたちからの様々なレファレンスからも彼の影響力と彼が多くのアーティストから愛されていたことがわかると思う。


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映画『ルディ・レイ・ムーア』で描かれたもの

ここまで簡単にではあるが、ルディ・レイ・ムーア自身の人生と後世に与えた影響を振り返ってきた。そんな彼の物語を映画化したのが原題『Dolmite Is My Name』こと『ルディ・レイ・ムーア』である。この映画では前半で、リコとの出会いからコメディレコードの制作とそれがヒットするまで、そして後半で、彼の名を世に知らしめることになる映画『Dolemite』(1975)の制作のエピソードが描かれる。今作の特徴は、伝説のエンターテイナーの伝記ものでありつつ、1970年代前半の短い期間のエピソードに絞ってるため、現代では珍しいほどの、全編楽しさにあふれたサクセスストーリーになっている点だ。全編ライトでポジティブな語り口で彼の物語が語られる映画になっている。

主演のルディ・レイ・ムーアを演じたのは『ビバリーヒルズコップ』シリーズや『48時間』などのエディ・マーフィー。近年出演作に恵まれていなかった彼が役者として復活し、何なら演技としてはキャリア最高の評価を受けているのが今作だ。自身もコメディアンとしてルディ・レイ・ムーアを慕っていた彼は全力でムーアになりきって演技をしている。

そんなマーフィーの脇を固める役者人も、『ニュージャックシティ』や『ブレイド』シリーズでおなじみのウェズリー・スナイプスや、近年大ヒットし、チャイルディッシュ・ガンビーノの「『Redbone」』が流れることでもおなじみの映画『ゲット・アウト』の監督ジョーダン・ピールのコメディアンとしての相方キーガン・マイケル・キーなど豪華なのだが、例えば、先にも何度か名前を出したスヌープ・ドッグが、ルディが働くレコードショップのDJ役で出演していたり、ラッパーのT.I.が一瞬顔出し程度に出演していたりと、ラッパーたちのカメオ出演も散見される。

今作の監督を務めたのはクレイグ・ブリュワー。彼は2000年代のヒップホップ映画の傑作『ハッスル&フロウ』や、音楽業界を舞台にヒップホップスターを主人公にした海外ドラマ『エンパイア』などの監督をしている人物だ。ヒップホップカルチャーとのかかわりが深いこの映画の監督に就いたのは、彼のフィルモグラフィーを見ると必然といえるかもしれない。

魅力的なキャスト、信頼できるスタッフによって作り上げられた今回の映画は、ルディ・レイ・ムーアという人を知るという意味でも、勿論いい入り口になり、何よりも優れたコメディ映画でもあるため、万人が楽しめるエンターテイメントとなっている。コメディ好き、映画好きが楽しめるのは勿論のこと、やはりヒップホップカルチャー好きの人たちにこそ、ぜひ見てもらいたい一本である。彼の物語に触れることによって、彼から現在までのヒップホップ史に連なるルーツのようなものを感じ取ってもらえるかもしれない。

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Credit

Writer : 市川 タツキ

幼い頃から、映画をはじめとする映像作品に関心を深めながら、高校時代に、音楽全般にも興味を持ち始め、特にヒップホップ音楽全般を聞くようになる。現在都内の大学に通いつつ、映画全般、ヒップホップカルチャー全般やブラックミュージックを熱心に追い続けている。@tatsuki_99

【Info】

Title : ルディ・レイ・ムーア(Dolemite Is My Name)

あらすじ :70年代のLAでくすぶっていたコメディアンのルディ・レイ・ムーアだが、とことん下品に演じたキャラ“ ドールマイト ”が大当たりし、彼主演の映画製作にすべてを懸ける。

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