DPR LIVE『IS ANYBODY OUT THERE?』 「自分」と向き合い続ける若きラッパーの決定的な一枚
June 21, 2020
近年、様々な若手のアーティストたちによって、韓国のヒップホップシーンはより一層盛り上がりを見せている。例えば自身も韓国のヒップホップシーンの中心的レーベルAOMGとHIGHR MUSICの二つのレーベルを設立し、2017年にはJay Zのレーベル、Roc Nationと契約したことも話題になったJay Park。今年のJP THE WAVYのアルバムに参加していたことも記憶に新しい彼の、インターナショナルで様々な場所やジャンルを横断する活動はひときわ目立つ存在だ。または、HoodyやCrushなど、純性のR&Bアルバムを仕上げてくるようなアーティストの活躍も見られる。今年に入ってからもSik-KやCode Kunstなど、様々なアーティストから、高クオリティな新作アルバムが次々と発表されているが、今回はその中でも、1993年生まれの韓国人ラッパーDPR LIVEと、今年の3月にリリースされた彼のニューアルバム『IS ANYBODY OUT THERE?』を紹介したい。
ALBUM COVER
DPR LIVEのアーティスト性
BAD HOPがラジオで紹介したことをはじめとして、日本でも人気が徐々に増してきている今注目のラッパーDPR LIVE。今作は、前作のEP『Coming To You Live』のリリースから約3年を経て放たれた1stフルアルバムだ。
前作『Coming To You Live』はJay ParkやDEAN、そしてアジア系アメリカ人ラッパーのDumfoundedと、デビューEPにもかかわらず、そうそうたるメンバーが参加している作品だ。聞いてみると、エキサイティングなラップソングから、メロウなR&B調の楽曲まで、豊かなサウンドと曲調を展開し、彼のアーティスト性が掴みやすい作品となっている。その意味では、曲の内容に関しても、彼自身がどんなアーティストかを自己言及する内容も散見され、より彼に対する理解が深まる内容になっている。 例えばDEANが参加している「Know Me」という曲の歌詞は、アーティストとしての自分の在り方やスタンスを表明するような歌詞になっており、最後のトラックの「To Myself」という曲では、業界の中での自分の在り方を語る。自分は大量生産されるようなフェイクではなく、信念を貫く本物でありたいというような内容を語り、自信をくれるファンのサポートにも感謝を述べている。このように、「アーティストとしての自分」が一つのテーマとなっているこのEPは、彼のアーティスト性がいろいろな意味で分かる1枚となっている。
さらにいくつかの曲中では、前作のEPのタイトルである『Coming To You Live』というフレーズがたびたび登場する。ここまで前作との比較を通して今作を見てきたが、このことからも今作の内容が、『Coming To You Live』以降の彼の考えやスタンスが反映されていることに意識的であることわかり、それ故に、前作も今作の理解にとって重要だったといえる。
今作はそんな、今の視点、ポジションから、前作で描いた主題を改めて提示し、同時に彼の世界観を作り上げた、よりコンセプチュアルな作品だったように思える。前述したフィーチャリングゲストなしという部分からも、「自分の世界」を作り上げることに対する彼の本気がうかがえる。故に、アーティストとしての自分と向き合い続けてきた主題の展開も、アルバムとしての完成度も前進し、今の韓国のヒップホップシーンを担う一人である彼の世界観が、より定まってきた作品だと今作は言える。『IS ANYBODY OUT THERE?』は間違いなく今年の韓国のヒップホップシーンにとっても、DPR LIVE自身のキャリアにとっても、重要な一作となっていくだろう。