VanJess HomeGrown

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『Homegrown』- VanJess | ナイジェリア発、自家製R&Bに秘められた想い

February 22, 2020

ニューノーマルではなく原点回帰

世界中を席巻したパンデミックは、音楽が本質的には不要不急のエンターテインメントであり、かつ密になることで熱狂を生み出してきた産業だっただけに、音楽シーンに甚大な影響を及ぼし、多くのアーティストはこれまでとは違う形での活動を強いられた。

ドレイクがロックダウン中の自宅隔離を意識した「
Toosie Slide」のMVを制作したり、ケラーニが自粛期間中に自身一人でアルバム『It Was Good Until It Wasn’t』を制作したり、ことラップミュージックやR&Bシーンにおいてはクアランティン(隔離)・スタイルこそがアーティスト活動のニューノーマルとなっていったように見えた。しかし、いくらインターネットが普及したとは言え、作詞・作曲、収録、編曲、リリース、プロモーション全てのプロセスを自宅で完結させる事は当然容易いことではない。

ナイジェリア出身の姉妹イヴァナとジェシカのR&Bデュオ VanJess にとって、自宅での音楽制作活動は目新しいことではなかった。というのも、彼女たちは2018年にメジャーデビューするまで、完全なDIYな環境で自分たちのサウンドを確立していたからだ。「アン、ドゥ、トロワ…」で始まる彼女たちのデビューのきっかけとなったカバー動画を見れば、いかに彼女たちにとってクアランティン・スタイルがニューノーマルでないことが伺えるだろう。

そんな彼女たちの最新アルバム『Homegrown』がリリースされた。驚くほど安易で素直なタイトルは、パンデミックが流行する前のファーストアルバムのタイトルの原案だったらしく、当時の自分たちのインディペンデントなイメージを打ち出そうとしていた背景があるとのこと。

結局そのタイトルは採用はされなかったものの、VanJess はそのアルバムで華々しいデビューを飾り、その後も翌年にはリミックスバージョンもリリースし、Ari Lennox や Xavier Omär といった新鋭R&Bアーティストたちとの交流を深めていった。しかし、パンデミックによって隔離生活が始まると、当然彼女たちもスタジオ収録やイベント出演はできなくなってしまい、その不確実性の中で再び古巣に戻ることを余儀なくされた。皮肉にも当初のタイトルの伏線を回収し、それを再び体現する形で世界中の人々にエネルギーとヴァイブスを届けることを決心したのだった。

 

自家製サウンドに込められた想い

アルバムを制作するにあたり、まず彼女たちは家のホームスタジオを作り直し、再び楽曲のカバーに取り掛かった。そうすることでデビュー前の意欲的な自分たちに立ち戻ろうとしたのだ。実際に、それらを通して改めて自分たちが徹底的なDIYアーティストであり、デビュー前から何も変化していないことを再認識したそうだ。

昨年9月に先行リリースされた「Come Over」の軽快なディスコサウンドから始まる本作。ナイジェリア版ハリウッドであるノリウッドからインスパイアされたというMVは、70年代のソウルやアフロファンクテイストのゴージャスでファッショナブルなビジュアルが特徴的だが、ジャネイの「Hey Mr. D.J.」を彷彿とさせるようなオーセンティックな姉妹のハーモニーがその世代のギャップをなくしているのか、全く違和感を感じさせない。YouTubeチャンネルにも「Groove Thang」のカバーを公開していることからも影響を受けていることは間違いないだろう。

イギリスのエレクトロデュオ、スネイクヒップスをプロデューサーに迎えた2曲目「Slow Down」も傑出した曲の一つだ。ファーストアルバムの「Addicted」を思い出させる、サックスとトラップ調のスネアが奏でるスローなビートは以前として彼女たちの得意分野だ。大切な人と過ごす時はつい時間を忘れてしまうもの、そんな刹那的な時間の中での愛を歌う彼女たちのセクシーな歌詞はR&Bの王道をゆくような至高そのものではないだろうか。

作詞の話をすれば、2020年グラミー賞の新人賞にもノミネートされた(個人的には2010年代中盤から台頭していた記憶があるが)ケイトラナダとの楽曲「DYSFUNCTIONAL」は触れておきたい。アメリカのテレビアニメ『The Proud Family』の中で出てくる楽曲「So Dysfunctional Song」をサンプリングしつつ、物事が上手くいかなくなって崩壊寸前の人間関係を歌っている遊び心ある歌詞は、アルバムのスパイスとなりリスナーを飽きさせない。

また、本作で特筆すべきなのが、前作でも見受けられる多彩な面子とのコラボレーションである。昨年Tiktokをきっかけにバイラルヒットし話題となった Smino の楽曲「Kolors」を手がけたプロデューサー Monte Booker が手がけた3曲目「Roses」や、2019年のフジロックフェスティバルにも参加し、そのジャンルに囚われない自由な音楽性が話題となったブルックリン発実力派バンド Phony Ppl をフューチャリングした7曲目「Caught Up (feat. Phony Ppl)」、ラッパーの KOJOE とのコラボでも知られるR&Bシンガー Devin Morrison との楽曲「Boo Thang (feat. Devin Morrison)」など、彼女たちの審美眼に疑う余地はない。

驚きなのはそれらのコラボレーションが決して彼女たちの一方的なわがままではなく、あくまで友人関係の延長線上で、一緒にいて偶然お互いのヴァイブが合ったから、という自然的なものである点だ。フィジカルなコミュニケーションが取れなくなった今、大切なのはビジネスライクな浅い関係値よりも、同じヴァイブを心の底から共感できるリアルな仲間と繋がることであることが伺えるだろう。

ラストを飾る9曲目「Come Over Again」は、フェイス・エヴァンズのデビューアルバム『Faith』から「Come Over」をサンプリングした、1曲目「Come Over」のリミックスバージョンだ。90年代を代表するR&Bディーバの歌声のノスタルジックなムードの中で「I wanna come over(あなたのところへ行きたい)」と歌う本曲は、まさに『Homegrown』というタイトルの裏に秘められた、彼女たちのパンデミックに対する希望と祈りの想いが込められているのではないだろうか。

 

2つのアイデンティティ

「70年代にナイジェリアで隔離されたとしたら、どんな服を着るのか」。ビジュアルを通して自分たちのイメージをより的確に伝えようとした本作は、70年代にナイジェリアで育った自分たちの親の古い写真アルバムや彼らのスタイルから着想を得たとのこと。先祖代々のナイジェリアの伝統を受け継ぐ身として、またLAで暮らすナイジェリア系アメリカ人として、それら2つのアイデンティティを持つ彼女たちだからこそ、ナイジェリアの先住民イボ族の賛美歌を本格的なアフロビートでないコンテンポラリーR&Bに昇華できるのだろう。

今年中にフルレングスのアルバムをリリースする予定のVanJess。同じくナイジェリア出身アフロビーツのスターBurna BoyやWizkidとのコラボレーションはもちろん、Chloe x Halleとダブル姉妹コラボレーションなど今後の活動に注目したい。

<参考>

・How VanJess Took an Organic Approach for New EP ‘Homegrown’: Interview
https://ratedrnb.com/2021/02/interview-vanjess-homegrown/

・VanJess Perfected Their Own R&B Sound on the ‘Homegrown’ EP
https://www.okayplayer.com/music/
vanjess-homegrown-ep-interview.html

・VanJess Talks Us Through Creating In Quarantine And The Making Of Their EP, “Homegrown”
https://www.buzzfeednews.com/article
/hissasalwe/vanjess-homegrown-quarantine-interview

Credit

Writer : 平川拓海

学生時代に始めたストリートダンスやクラブでのバイトを通して、音楽を中心としたストリートカルチャーに触れる。在学中に『TALENTED_TENTH 〜ラップ・ミュージックは何を伝えたのか〜』を執筆。現在はサラリーマンをする傍ら、音楽ライター/音楽キュレーター/DJとして活動中。クラブで踊る時間が一番の幸せ。(IG : @_takumihirakawa )(TW : @_takumihirakawa

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