JP THE WAVY-『LIFE IS WAVY』 宇宙からやって来て、宇宙へと向かう男の地球史に残す一枚
May 26, 2020
2017年に「Cho Wavy De Gomenne」のヒットで颯爽とシーンに現れ、着実にその存在感を確かなものとしてきたラッパー・JP THE WAVYが2020年4月8日にリリースした初のフルアルバム。全18曲およそ49分に及ぶ今作のタイトルは『LIFE IS WAVY』。m-floのVERBAL、AKLO、MIYACHIといった国内のラッパーやプロデューサーに加えて、アメリカやベトナムからもアーティストらが参加した意欲作。アートワークにはVERDYが手がけたキャラクターが採用されている。
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“ コーヒー ”のある暮らし
JP THE WAVYの世界には度々“ コーヒー ”が登場する。彼が形容する“コーヒー”はクールでチルな雰囲気の象徴であり、存在である。MIYACHIを客演に迎えた2曲目の「Beverly Hillis(feat. MIYACHI)」ではこう語られる。
“ 見た事ない感じ 総合的新生児 そりゃ今までねぇこのタイプ台風みたいな問題児 ” – Neo Gal Wop
ラグジュアリーストリートブランドの店員としても働いていた彼の場合、同じゴールドのチェーンを首から下げていようとステレオタイプ的なそれとは全く違って映る。Instagramからは彼がいかにファッションを楽しんでいるか伺うことができ、ステージやミュージックビデオではクールに踊ってみせる。2020年5月現在、1500万回を超える再生数を誇る「Cho Wavy De Gomenne Remix feat. SALU」は約3年前のミュージックビデオでありながら、彼のスタイルを決定付けた「ネオギャル男代表宣言」でもあったのだ。
彼はどこから来て、どこへ向かうのか
前代未聞の疫病による混乱に対して、人類が結束して立ち向かうために、STAY HOMEを楽しむ施策をあらゆるアーティストが行ってきた。アジアから世界を席巻するレーベル・88risingの場合は、TERIYAKI BOYZの楽曲「TOKYO DRIFT」をビートジャックする企画「TOKYO DRIFT FREESTYLE」をYouTube上で公開した。#challenge的にミームとして日本でも広がりを見せ、多くのラッパーが自身のアカウントを通じて披露している。モデルの重盛さと美など、他分野の著名人を巻き込むほどになっていることからもその規模がうかがえるが、この施策の仕掛け人である88risingのYouTubeアカウントから公開されている映像は、いわばオフィシャルのものであり、彼らに認められたことを意味する。そのラインナップは看板アーティストであるRich BrianやHigher Brothers。ベトナム出身のフィメールラッパー・Suboi。日本からはAwich、ANARCHYそしてJP THE WAVYが登場している。
彼のビデオのラストバースをはこうだ。
“ 一体全体俺たちこれからどこまで行っちゃうの?(Let’s go)”
ビデオの最後にはアルバムの告知が流れる。思えば、『LIFE IS WAVY』には宇宙的なモチーフが数多く登場する。#1「OK, COOL(feat. VERBAL)」のミュージックビデオでは、(ラストのオチはあるが)仲間とともに宇宙船からお送りしている。他楽曲においては以下の通り。
“ 宇宙に行こう 太陽に挨拶 ” – BLIND(feat. Jay Park)
“ 俺稼いでまとめて火星まで行く” – Blessed
“ 先の道向かう君と 俺ら月の裏まで飛んでくよ ” – Donut
ここで、今作のジャケットをもう一度見て欲しい。VERDYによる、JP THE WAVYをエイリアン的にデフォルメしたキャラクターがそこには描かれている。宇宙的なモチーフはJP THE WAVY自身にまで施されているのだ。ここで1つの仮定が生まれる。「もしも彼が宇宙人だとしたら…。」
この仮定が正しいとすると、自然と我々がそのスタイルに魅せられることに納得がいく。これまでに指摘したようにファッションセンスやダンス、そして価値観に至るまで彼は新たなスタイルを日本のヒップホップ界に提示し続けている。そして、そのどれもがクールであった。JP THE WAVYは、私たちが知らないところから来て、まだ見ぬ先へと向かっているのだ。本人曰く、その先というのはどうやら世界の果てなんてものではないらしい。