KANDYTOWN LOCAL SERVICE 2

Album Cover

KANDYTOWN -『LOCAL SERVICE 2』| ファミリーと紡ぐ、愛と情熱に包まれたメッセージ

March 1, 2020

 

“ Although the world is full of suffering, it is full of the overcoming of it.

世界は苦しいことに溢れている。
だけど、それに打ち勝つことでも溢れている。

(from「One More Dance (STAY HOME EDITION)」Caption on YouTube)

 

STAY HOME EDITION

新型コロナ・ウイルスの脅威が日本にも本格的に現れ始め、ステイ・ホームを余儀なくされた2020年の4月。先の見通しが立たない不安な状況下で KANDYTOWN LIFE から届いたのは『Stay Home Edition』と題された「One More Dance」「Faithful」「Dripsoul」の3曲だった。

“ 今回の『Stay Home Edition』はいちばん昔のノリに近かったかなってちょっと思ってて。突発的に「会って遊ぼうよ」から、なにかを残そうじゃないけど、ノリで「曲やろう!」ってなってできた感じだった。- KEIJU (ele-king)

TypeBeat に乗せて YouTube でのみ公開された3曲は即興に近い形で制作されたようだ。彼らにとって、遊びの延長線上に曲作りがある(もしくは、曲作りこそが彼らの遊び方である)ということは、KANDYTOWN のファンなら重々承知だろう。多くの名曲が収録された初期作品『KOLD TAPE』も『BLAKK MOTEL』も、その場のグルーヴによって生み出された曲が詰め込まれた作品だった。

そんな馴染みのプロセスから生み出された『Stay Home Edition』だが、曲中には、プロジェクトのタイトルから連想されるような、コロナ禍を生きる人々への特別な励ましの言葉やメッセージはなかった。むしろ、そこにあるのは、彼らがずっと貫いてきた身近な人間への愛情や、リレーションシップ(恋愛関係)への言及である。

“ 波が寄せては残す面影
寂しさに寄り添って吹く風
隣Homies 変わらず今でも
握る小さな手 雨の日も
Boyz N’ the Hood いつか見た夜明けを – Faithful (IO) ”

“ 答えはないのに
You Need Me By Side
Just Stay for My Side
Just Play on Me
Dripsoul, Dripsoul – Dripsoul (IO) ”

いつも通りのスタイルを貫くことを大事にしている彼らだが、ダンスホールライクなビートを採用した「One More Dance」を始め、TypeBeat ならではのメロディアスなサウンドや、以前にも増して「愛情」というテーマにフォーカスしたリリックを聴いていると、コロナ禍を通じて、それぞれが「人との繋がり」について、考えを巡らせることがあったのかもしれないと想像が膨らむ。

3曲のビートはそんな新鮮さを残しながら Neetz によるものへと変更。TOKA(Tokyo Recordings)のプロデューサー Yaffle がアレンジを務めるなど、特に「One More Dance」では、サウンド面でこれまでになかった KANDYTOWN の音が表現されている。そんな『Stay Home Edition』の3曲に加え、新たに3曲が追加され、キング Yushi の命日である2.14にリリースされた新EPが『LOCAL SERVICE 2』だ。


KANDYTOWN LIFE

 

変わるものと、変わらないもの

Ryohu がプロデュースした4曲目「Sunday Drive」は、「都会の夜」のイメージが強い彼らの作品としては、タイトルは勿論、爽やかなビートも含め、かなり新鮮な一曲だろう。ただ、そんなタイトル/ビートとは裏腹に KEIJU & DONY JOINT & Neetz によるフックでは、力強い言葉が放たれる。

“ 自分に釘を刺すように書くリリックと
やるなら真っ当で No Gimmick っしょ
悔やんでも Life Goes On
憧れて何残す? – Sunday Drive(KEIJU & DONY JOINT & Neetz)”

誰にだって、時に欲に負けたり、レイジーになること、ダサいことをしてしまう、言ってしまうことはある。彼らはそんな自分自身を律する、自分の美学を貫く誓いをリリックに立てる。ヒップホップにおけるクールさ、つまり「真っ当に」「常にポジティブに」「何かを残す」こそが彼らの美学であり、生活と行動の規範なのである。そして勿論、その美学は若いファンたちの思考・行動にもポジティブな影響を与えるに違いない。メンバーの多くが、Jay-Z, Nipsey Hussle や Nas など、クラシックなスタイルを貫くMCたちに影響を受けているからこそ、こうした、まさに正統なヒップホップらしい、情熱に溢れた、ポジティブなメッセージを届けることができるのだろう。聴いた人の心を熱くする彼らの言葉と音は、この後の2曲でも続いていく。

” ラップを書くっていうのは、人として自分に整理をつけるために必要なこと、みたいになってるんですよね。だから、自分の経験に応じて言っていることや、内容が変わることはあると思います。でも、ラップそのものに対しての意識や気持ちが変わることはないですね。- DIAN (EYESCERAM/2019) “

「経験に応じてラップする内容は変化している」。DIAN が『ADVISORY』リリース時にインタビューで語っていることが、まさに表現されているのがトラック5「Comimg Home (feat. MUD & Gottz)」だ。2人のヴァースを抜粋して紹介したい。

“ 何から伝えよう
言いたいこといっぱいあるよね I Know
政治家やバビロン これ以上奪い続ける何を
Boys Be Ambitious 幼い子どもに与え 育てる愛情
眠らない街を 眺めて耳傾けるRadio
理想と程遠いReality
思うように上手くいかない
変わっていく姿 形
皆幸せになれたらいい
Some People Die, Other People Get Rich
下向いてないで今は前進
暗闇のその先に 燃やし続けるこの魂 – MUD (Coming Home) ”

“ 君も家族も他と同じように
生まれてはただいつか死ぬ命
この地球と罪のない子どもたち
世間に殺されてくその気持ち
嘘つきたちが至福を肥やし
神の名の下に慈悲すらなし
墓に入った後も金を増やし
周りを気にすることもない
持続可能な世界はいつになる
君の痛みは歴史の傷になる – Gottz (Coming Home) ”

世の中に対する不満や不安、理想には到底届かない現実、格差や偽りに溢れた世の中、傷ついていく子どもたち。どれもきっと数年前の彼らのリリックには登場しなかったであろうテーマばかりだ。パンデミックを経たからなのか、ダディになったメンバーたちが多いからなのか、その理由はわからないが、こうして彼らは様々な経験、感じた想いから、これまで以上に視野を広げ、その想いを語っている。

フックでは、こうした未曾有の危機や、問題に溢れる現代に生きる私たちへ「Everything’s gonna be alright, どこにいても関係ない いつでもFamily on my mind」と、優しく寄り添うようなラインを送る。KANDYTOWN がクールなのは、単に彼らの風貌やスタイルがイケてるから、それだけではない。 彼らがクールなのは、彼らの音楽に愛が溢れているからだ。

このように「Coming Home」は、ラップの内容やテーマ自体は変えながらも、彼らのロマンティックでドラマティックな音楽性を生み出す核となる、深い愛情(ソウルフルさ)は変わっていない、ということを再確認させられた一曲だった。そうした彼らのアイデンティティは最後のトラックでさらに強調されることとなる。

EPのラストを飾るのはトラック6「Sky」。フック部分が特に印象的で、故Nipsey Hussle と、KANDYTOWN のKing、Yushi 、二人のレジェンドの姿が空に重なる美しく壮大な展開を見せる。

“ 真下になく上にあるSky
So many my brother will never die
Fly in the air like Hussle – Ryohu (Sky) ”

「真下になく上にあるSky」というラインを聞けば、悲しい出来事、辛い出来事に俯くことなく、熱い言葉を綴り続ける彼らの確固たる美学と精神性こそ、このクルーのアイデンティティであるとハッキリ伝わってくる。(この「熱さ」や「愛情」というのが特に Yushi からの影響であることも過去の音源を聴けばわかるはずだ。)

このように『LOCAL SERVICE 2』には、様々な経験を経たクルーの現在と、変わらない彼らの愛情に溢れた、私たちの胸を打つような熱いメッセージが込められていた。5〜6年ほど前にシーンに颯爽と現れた KANDYTOWN も才能溢れる若手ラッパーがシーンに多数登場する現在、徐々にその立ち位置がベテランへと近づいていっている。KANDYTOWN としても、各メンバーがソロ・アーティストとしても、新たなフェーズへとステップを進めていくことだろうが、いつまでも今作のように、彼ららしい美学を貫きながら、新たな変化を見せていって欲しいと願っている。

ファンとしては MIKI と KIKUMARU のEPへの不参加に寂しさは残るものの、今年は待望の DIAN のデビューアルバムのリリースが予定されていたりと、彼らの新しい動きに期待できる1年になることだろう。それまでは、彼らの「今」が詰まった一作をじっくり聴き込もう。

Credit

Writer : Shinya Yamazaki

Founder / Chief Editor of SUBLYRICS.
Instagram : @snlut

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