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NENE - 『夢太郎』 | これは地獄か極楽か
NENEにしか作り出せない世界観

July 19, 2020

ゆるふわギャングの NENE が待望のソロEP『夢太郎』を、2017年発表のアルバム『NENE』以来およそ2年半ぶりにリリースした。本作はゆるふわギャングとヘンタイカメラ❤&YOUTHEROCK★のコラボEPと2枚同時にリリースされ、日本の伝説的な「妖怪」をテーマに据えた彼女らしさの詰まった作品だ。


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客演にはゆるふわギャングのRyugo Ishida 、今年「Poison」で伝説的なコラボを果たしたYENTOWN のAwich 、日本のヒップホップ界のレジェンドであるBUDDHA BRAND からNIPPS らが参加。プロデュースにはゆるふわギャングのAutomatic 、前回のソロアルバムにも大きく携わり、SALU やSEEDA なども手掛けるestra 、ゆるふわが敬愛する元SUPERCAR のナカコーことKoji Nakamura が参加している。今年春に公開されたラッパーによる落語コンテンツ『ISSEKI』でのNENE を彷彿とさせるような、ろくろっ首をモチーフにしたカバーアートは、タトゥー・アーティストのGanji が描いたものだ。

自分自身の弱さと向き合う

Koji Nakamuraプロデュースの陶酔感と神々しさの溢れる「山彦」でこのEPは幕を開ける。「山彦」とは「やまびこ」のことであり、自分の言動がそのまま自分に跳ね返ってくる、因果応報的なメッセージを持つ、彼女らしいユーモアのある一曲だ。

続いて少し怪しげで重い雰囲気の漂う、estraプロデュースの「6969 (ft. Ryugo Ishida)」へと繋がる。タイトルである「6969」はこのEPのカバーアートでもある、ろくろっ首のことを指しているのだろうか。世間から見たら歪んだ愛とも取れるような関係性の中で、「苦しさの中に見出す、生きているということの実感」と「苦痛と快楽の一体感」が確実に存在している。

“ 首を長くして待ってたよ 切りつけあったりしなくとも 極楽を見れるのChoke me up
首をきつく締められた時 生きてることを実感したの 快感と ” ― NENE / 6969 (ft. Ryugo Ishida)

この曲は聴いているだけでNENE とRyugo Ishida の二人だけの時間を想像してしまうような、ゾクゾクするリリックとテクニックが詰まっている。NENE のじりじりと迫ってくるような静かな語り口や、生々しくも世界観に忠実な表現、所々で耳に入ってくる祭り囃子や子供たちの声が、なんとも怪しげであり官能的だ。加えてRyugo のラインも欲深く淫らなのに美しい。この二人にしか作ることのできない、危うい快楽と欲望の溢れる世界観がすべてのパーツから伝わってくる一曲だ。

続く「慈愛」はAutomatic プロデュースの、NENE の中の「弱さ」にフォーカスしたエモーショナルなトラップビート。彼女の中の漠然とした不安や逃げたくなる気持ちがリリックとビート、MVのすべてから痛いほど伝わってくる。

“ 1人じゃないのにね 自分だけと感じて
その両手を 肩に回して 自分の事を 強く抱きしめる それが出来たらな ”
 ― NENE / 慈愛

そばにいて支えようとしてくれる人がいるのに、周りが見えず孤独に感じる瞬間。そんな時に自分自身を支える強さがあったのならば、と彼女も感じることがあるのだろうか。

“ こんなに優しい光が たくさんあるのに それにも気づかず 何か求めてた
守ることよりも 手放す最後に笑ってられたら ” ― NENE / 慈愛

得るものと引き換えに手放すものが多すぎて、挑戦して進み続けることは難しい。でも自分を信じて支えてくれる存在があれば、恐れずに進み続けることができる。そんなメッセージを感じる一曲だった。

無敵感の溢れる後半3曲

4曲目の「名器 (ft. Awich)」は今までの曲とは打って変わって、和を感じるノリのよいトラップビート。念願のAwich との再コラボレーションに大興奮したファンも多いのではないだろうか。「洗脳 (feat. DOGMA & 鎮座DOPENESS)」の出だしのような、怪しく声を潜めたAwich のラップにも注目だ。

EP前半の三曲はエモーショナルで危うい雰囲気だったのに対し、この曲は男勝りで強気な女性をイメージさせるリリックが多い。

“ 私も野郎みたいにやる 遊んでおいて連絡はブチ 遊女の見た目で中身は芸者 鏡なのよ 私は あんた 朝を紡ぐ硬い絆 ぎしぎし噛み合う歯車 ” ― NENE / 名器(ft. Awich)

ラップでは特に、女性は性の対象として軽く扱われることが多い。そんな中で、これほどまでに清々しく、女性主導の性の価値観をリリックにしてくれているのは、特に女性にとってはニヤリとしてしまうような嬉しさがあるのではないか。しかもNENE とAwich という、誰もが認める技術と人気を持つラッパーによって。

続く「Dilemma」は清涼感と陶酔感の溢れる、海外の青春映画を彷彿とさせるようなバンドサウンド。もういらないとは頭で分かっていても、つい手が伸びてしまうジレンマをリリックにしている。その時の朦朧とした感覚は、地獄か天国か判断が付かないような、「6969 (ft. Ryugo Ishida)」にも登場した「苦痛と快楽の一体感」にも通じるような感覚なのではないだろうか。

最後の曲は、estra プロデュースの「地獄絵図 (ft. NIPPS)」。電子音が所々に入る遊び心のあるビートと、NENE がライブの時に見せるような、ほとんど叫びのようなラップの組み合わせを音源で聴くのは新鮮だ。レジェンド、BUDDHA BRAND からNIPPS を客演で迎えたのは驚きだったが、実際に曲を聴くとその二人の相性が絶妙であることが分かった。NIPPS の迫りくるような怪しいラップと、怒り狂ったNENE の荒々しいラップが組み合わさり、本当に「地獄絵図」のような雰囲気を作り出していた。

“ 清楚なフリして Bitch you ugly 顔にタトゥーでも Fuck I’m pretty
盆栽切ってケミカルとグラミー 全部食っちゃう しゃぶる ケンタッキー
化粧しなくても Fuck I’m pretty テキーラ飲んでも Fuck I’m pretty
ブスにも優しいI’m so beauty めちゃくちゃイカれてる freaky monky  ” ― NENE / 地獄絵図 (ft. NIPPS)

NENEのフックの部分はNIPPS & I-DEAの「Rich Man, Poor Man」のフックのオマージュのようにも感じられる。すべてのリリックがパンチラインと言っても過言ではないほど力強く、特にフックの部分でNENEが荒々しく自分のことをフレックスし続けているのが印象的だ。こんな最強なバイブスに絶対になりたいし、こういう言葉を曲で聴くと、多くのリスナーは自分が少し強くなったかのような感覚になるのではないだろうか。できるだけ早く、実際にライブで「Fuck I’m pretty」と叫びたい気持ちが抑えきれない。

“ 医者が出したピルよりもチル インディカでも頭に血が上る
わからないやつにはわからせる ペンが走ったらもう地獄絵図 ” ― NENE / 地獄絵図 (ft. NIPPS)

わからないやつにも有無を言わさずわからせるという自信。怒り狂って最強モードになっているときの彼女は無敵であり、誰も敵うものはいない。最後の最後でこんなにガツンとスピットし続ける曲を持ってくるなんて、すぐにEPをもう一周したくなってしまう。

自身の“二面性”

EP全体を通して言えることだが、作品全体にNENE自身の「二面性」を表すリリックや表現が目立つ。

“ 6月生まれ 2face Gemini 立ってる上は自分のSacrifice だけど本当は仲良くしたい ドッペルゲンガーだけは信じない ” ― NENE / 山彦

先日公開された「慈愛」のMVも終始ワンカットの2画面で撮られており、左右で表されている彼女のキャラクターが異なる。

左側は夜の闇の中、余裕な表情と共に堂々と進んでいく、無邪気でもあり強気なキャラクター。それに対し右側は、昼間の明るい中を歩いているのに、怒りや、どこかに弱さや怯えのようなものが感じられ、最初の方では何かから逃げているようにも見える。その明るい時間に感じる、漠然とした不安感のようなものがMVだけでなくリリックにも表れている。

“ オバケが見える ここ最近ずっと 気にしてないけど
オバケが見える こんな朝にも ” ― NENE / 慈愛

このEPの構成としても、壊れそうなほどに繊細なリリックと世界観を持つ「6969 ft. Ryugo Ishida(Prod by estra)」や「慈愛」などと、「名器 (ft. Awich)」や「地獄絵図 (ft. NIPPS)」に代表される、男女の強さの差なんてないと思わせてくれるような強気でバイブスの高い曲とで分かれているように感じられる。

もしかしたらこのEPは「弱さと葛藤する自分」「負けん気が強い最強な自分」の二面性を描いているのではないか、と勝手ながらに推測してしまう。

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Credit

Writer : 谷田貝 みのり

日本のアンダーグラウンド・ヒップホップ、海外のG-FUNKを特に好む。WEBメディアの編集をしつつ、音楽について執筆する日々。渋谷と川崎によく出没する。 (IG : @minorigaga)(Twitter : @minori_yata

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