tobi lou -『Non-Perishable』| ポップでへヴィーな内省空間を映すコンセプトアルバム / album review

April 03, 2022

他者と向き合う時ほど自分自身と向き合わなければならない時はない。ナイジェリアルーツのシカゴのラッパー tobi lou はその事実を受け入れているように見える。   

2019年にリリースされた『Live on Ice』という作品のジャケットは、その名の通り、溶けかけている氷の中に、アニメーション化した tobi lou が座っているキュートでポップな絵となっている。そのジャケットに惹かれ再生ボタンを押した人々(あるいはシングル“Game Ova”や”Buff Baby“で既に彼のフロウの中毒に陥っている人々)の耳には、全21トラック77分に及ぶメロディアスなサウンドとラップの快楽が流れ込んできた。ソウルやゴスペルにも迂回する音楽性で、同郷のチャンス・ザ・ラッパーの軽やかさを想起させながらも(本人はカニエ・ウエストからの影響を度々公言している)、同時にサウンドが湛えるローファイな質感の方を、このシンプルなジャケットの絵は体現していると言えるだろう。恋愛や家族に対するリリックでは、他者への愛と、関係性に向き合う tobi lou の姿が、ポップカルチャーの引用と共にアイロニカルかつユニークに表現されていた。


『Live on Ice』

そんなtobi louがEP作『LINGO STARR』を挟み、リリースした本作『Non-Perishable』のコンセプトは「白い空間」である。長尺だった『Live on Ice』に対して、32分というタイトな尺の本作は、それぞれの曲と共に、彼自身が手がける短い映像作品が(こうして記事を書いている今もなお)連続して公開されている。過剰なエフェクトが施される”Helpless Romantic”やロバート・ゼメキスの映画『コンタクト』のオマージュを、技巧も含め再現する”Jelly”など、現時点で公開されている各楽曲のビデオの仕上がりは遊び心に溢れている。一方で、過去作で氷の部屋に閉じ込められていた tobi lou が、本作では白い空間の中にいることがそこで確認できるだろう。

『Non-Perishable』

そこに用意される白い空間は、彼の作品の抽象度をビジュアルによって高めると同時に、彼の楽曲が非常に内省的な内容であることを視覚的に物語っているようにも見える。<Saw my face in the mirror and cried>というラインがある”Jelly”のビデオには鏡で自分の姿を見る場面が存在する。tobi lou の歌の特徴は、時には執着的な他者への愛を綴りながら、常に内省空間の中で自分自身と向き合っているところである。そういう意味で、本作は映像作品と共に、tobi lou という人物の心象風景を映した作品と言えるのかもしれない。

タイトになった分、『Live on Ice』に比べ音楽的な纏まりや構成の妙も散見されるのが本作『Non-Perishable』の魅力であるが、とりわけ恋愛のテーマにフォーカスしていることも特徴的だろう。本作は恋をする tobi lou の起伏が激しい感情、その風景をリスナーに覗かせる。

恋愛のテーマはその名の通り1曲目“Helpless Romantic”から顕著だ。ここでは“絶望的なロマンス“と綴られる、元パートナーへの叶わぬ恋が劇的に表現されている。続く2曲目”Babycakes”ではDurand Jones & The Indicationsによるスイートなソウル ”Crusin’ to the Park”をサンプリングしながら、恋愛感情についての描写を引き継いでいるが、どうやら精神不安定状態に陥っている tobi lou の姿も窺える。

” Why do I feel lonely? “
– Babycakes

tobi lou は度々、内省世界の中で自問する。ナーバスな感情も素直にそのまま落とし込む歌詞は彼らしいと言えるだろう。さらに、恋愛感情が主題にあるからか、トラップやUKガラージを取り込んだビートにも惹かれつつ、R&Bやソウルバラードの要素を含む展開が特に印象に残る(“Babycakes”もその一つと言っていいだろう)。

例えば4曲目“2hrs+(feat.T-Pain)”。この曲は2020年に tobi lou がリリースしたシングル”2hrs”にT-Painのパートを加え拡大させたものである。この楽曲は作品中最初に来るバラード的展開だが、元の楽曲にT-Painの歌を登場させることによってその色が強められている(期待に応えるオートチューン歌唱だ)

さらに、10曲目“Busy”のラストに奏でられる感情的なギターサウンドを経て、エンディングを飾る11曲目”The Last Dance(feat. CHIKA)“もロマンチックなムードを醸す。フィーチャリングと記されている CHIKA だが、彼女が歌うコーラス部分は、2020年にリリースした楽曲”U should“からの引用である。ここでも近年の楽曲を手軽にリブートしているように見えるが、いずれも作品の中にバラード性を加えるための作業だったようにも思える。

自由自在な tobi lou のフロウは、全体に貫かれる軽やかさを保つ上で欠かせないものである。他作品からの引用(本作で言えばビジュアルで前述した『コンタクト』、歌詞内でアニメ『ボージャックホースマン』を引用し、内省に向き合う主人公たちと重なっている)もユニークで作品全体のポップさを高めている。但し、度々人種差別やネットコミュニケーション、ドラッグとメンタルヘルスの関係性など、今日的かつ社会的なイシューへの意識が散見されるのも彼の楽曲の特徴だった。この「軽さ」と「重さ」のバランスは、ビジュアルを含めた本作においても見られるあたりだが、EP『LINGO STARR』リリース時のインタビューで、自分の音楽がどういうものなのか問われた彼はこんなことを言っている。

「敢えて言うなら、自分の音楽はハッピーであると同時に悲しさ(sad)も持っているんだ。人は決して幸せが満たされることはないから、ほとんどの曲でそのことを体現している。基本は常に「幸せ」と、「束の間の悲しみ」の状態を行き交うものなんだ」

彼の音楽における「軽さ」と「重さ」は、ここで言うところの「happy」と「sad」に言い換えができるだろう。他者への愛を歌いながら自省する姿を見せた彼の音楽にはそういった人生観がベースにあるのかもしれない。全てのコインに裏表があることを、tobi lou は思い出させてくれる。

Credit

Text : Ichikawa Tatsuki (@tatsuki_99)
Edit : Shinya Yamazaki (@snlut)

tobi lou 『Non-Perishable』
Release Date:2022.03.11
Tracklist:
1 Hopeless Romantic
2 Babycakes
3 Meaningless
4 2hrs+ feat. T-Pain
5 WIDE Open feat. Jean Deaux
6 Jelly
7 Yamaguchi
8 She Know My Name
9 Hurry-Up Offense
10 Busy
11 The Last Dance feat. CHIKA

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