Silent Killa Joint dhrma

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SILENT KILLA JOINT & dhrma『DAWN』| メロウな痛みの作文

March 23, 2020

今年3月10日。関西を拠点に活動するラッパーSILENT KILLA JOINTがついに1stアルバムをドロップした。盟友のビートメイカーdhrmaがフルプロデュースを務める。彼のクルーであるSQUAD WORDSのメンバーKakkyを始め、BES(SCARS、SWANKY SWIPE)、rkemishi(owls)、MILES-WORD(BLAHRMY)、Mu-ton(TRIMUG’s CARTEL)と多くのラッパーたちを客演に集めている豪華なアルバムだ。その上で、やはり、今作のキモはやはり一人のビートメイカーとラッパーの化学反応だと自分は言い切りたい。そこで、この記事ではどんな化学反応が生まれているのか?という事を具体的に解剖していこうと思う。多くの人にこのアルバムの魅力が伝われば幸いだ。

攻撃性からチルアウトへ

アルバムの内容に触れる前にSILENT KILLA JOINTというラッパーを象徴する曲をまずはチェックして欲しい。

“ うざってぇpolice
静かに殺すように ”

“ Cash Rule
政治国家の陰謀の作図 ”

– BlaqDevil (2015)

こうした物騒な言葉が1ヴァース目から飛び出しまくる楽曲が「Blaq Devil」である。『DAWN』が発表されるはるか前に発表された。Youtuberとして活躍していた彼のイメージを覆すようなハードコアっぷりを見せている。ピアノが不穏なメロディを奏でるワンループのビートの上で威勢よく言葉を放っていくこの曲はSILENT KILLA JOINTというラッパーの存在を多くの人間に知らせるきっかけとなった。D.I.Y.感溢れるビデオも含め今でも古びない強烈なインパクトを放っている。

さて、ここで本作に収録された2曲目「E.L.E.」を聞いて欲しい。

こうして聞き比べると今作におけるスタイルの変化が如実に判ると思う。ラップはレイドバックしたテンションとなり、ビートはチルアウトした雰囲気のものへと変化した。トラブルを乗り越え、達観した視点をゲットしたSILENT KILLA JOINTの姿が見えてくる。実際、彼の内面的な変化が音楽的な嗜好とシンクロしていることが「HIPHOP DNA」におけるインタビューでも語られている。

そして「E.L.E.」を聞けば一発でわかるだろう。このアルバム、何はともあれ音として気持ち良いのだ。まずdhrmaのビートがスゴい。J.Dilla直系の曇った質感のループと、それを裏切るようなサイケな展開。更にBoom Bapを軸としながらも多彩なトラックメイクを披露している。

例えばKakkyが参加している4曲目「Sincerely Yours」。Harry Fraudのようなソウルフルな上ネタにハイハットが連打するバウンシーなビートが聞こえてくる。あるいはBES、MILES-WORD、rkemishi達とマイクリレーを繰り広げる「FALLI’N」。軽快なクラップと悲劇的なストリングスが組み合わさった2000年代のG-Rapのようなシリアスなビートを奏でている。そうしたビートに絡まるSILENT KILLA JOINTのFLOW。その組み合わせだけで一服する時のBGMとして優秀だ。

しかし、このアルバムを単にグッド・ミュージックとして聞き流すには惜しい。SILENT KILLA JOINTが抱える生々しい痛みがリリックに込められているからだ。

ビートと痛みの作文、その化学反応

dhrmaのビートがローファイな質感で抽象的なスケッチを描く。一方、SILENT KILLA JOINTのリリックはそこに具体的な色を塗る。それは驚くほど正直で、痛みを感じるほどだ。かつてANARCHYが自らのリリックを、痛みの作文と呼んだ。SILENT KILLA JOINTの言葉はまさにそれである。そのヒリついた言葉をdhrmaのビートが新たなステージへと昇華させている。

例えばアルバム3曲目「Smoke Mo」のリリックをチェックしてみて欲しい。

“ もう…また鬱陶しいなぁ
ポリスは何もわかってへんな ”

“ 内偵 巻いたらまた巻いた
と思えば 盗聴って甘ないなぁ ”

‐ Smoke Mo (2021)

彼のライフスタイルを疎外しようとするシステムへの率直な苛立ちが綴られた生々しいリリックだ。このリリックがdhrmaによるピースフルで暖かみのあるビートの上で歌われる。その事で、どこかSILENT KILLA JOINTの言葉に込められた苛立ちや痛みをビートが鎮静するような化学反応が生まれている。

どこかZeebraの初期のクラシック「真っ昼間」にも似た、ゆるく、心地よいテンションが満ち溢れた楽曲になっている。ビートから生じるSILENT KILLA JOINTのフロウも他のトラックと比べても肩の力が抜けているように感じる。ビートがラッパーを変化させていく様がこの一曲だけでもよく分かる。

そして、こうした言葉と音の融合が極めつけで行われていると感じるのは6曲目の「Monday loop」だ。

“ 拾い上げた罪
繰り返します ごめんなさい ”

“ 満たされてない暗い明日が
俺の目の前を何度も閉ざすのさ ”

“ 先に進めば進むほど暗くなる ”

‐ Monday loop (2021) 

正直過ぎるほどに自らの内面にある不安を吐露したリリックだ。「BlaqDevil」の頃の好戦的なスタンスからは想像もつかない。弱さをさらけだすSILENT KILLA JOINTの姿が記録されている。

こうしてリリックだけ切り取ると、いかにもシリアスな曲に聞こえそうだ。しかし、実際は最高に首を振れるメロウな楽曲となっているのだ。dhrmaはこの曲でウェスト・コースト調のサウンドを披露している。太いベースラインとヴォコーダーによるコーラスが加わり心地良い空気感が漂う。結果として、dhrmaのビートが、SILENT KILLA JOINTの痛みに満ちた言葉に儚い希望を与えているように感じられる。リリックに含まれた感情をビートが更に成長させる関係性が展開されている。

突き放した視点が生むグルーヴ

例に出した曲を含め、アルバム全体のトーンとしてはやはりチルアウトしたムードが流れている。生々しい言葉が綴られつつも、それを劇的に見せてはいない。dhrmaのビートはあくまで静かにグルーヴする。

そこから筆者が感じたのは、SILENT KILLA JOINTは自らを、どこか突き放した視点で捉えているのではないか、という事だdhrmaによる抽象的なメロディのビートを選ぶのもそうした客観的な目線から生まれたセンスなのではないか。そして、こうした楽曲造りはYoutuberとラッパーという2足の草鞋を履いているSILENT KILLA JOINTというラッパーならではのものだ。どう見られているか?という視点を持っているからこそ生まれるプロデュース能力である。90’sマナーのビートを好みつつ、あくまでSILENT KILLA JOINTは現代のラッパーなのだ。

優れたラッパーとビートメイカーの組み合わせとは、それぞれの持ち味を互いが理解した関係性という事SILENT KILLA JOINTとdhrmaのコンビネーションが訴えるのはその事実だどのようなビートが流れ、それに対してどのような言葉をラッパーが吐くか。それを理解するための時間を二人は過ごしてきたのだ。それもまた、今作を聞くと分かることの一つである。

セッションの果てに生まれるもの

このアルバムには、SILENT KILLA JOINTの言葉を、dhrmaのビートが新たな次元へと引き上げる様が記録されている。Blackfileにおけるインタビューで日常的にSILENT KILLA JOINTはビートメイカーやバンドとセッションを行っている様が確認できる。それを踏まえるとdhrmaとSILENT KILLA JOINTの関係性もセッションの果てに生まれたものだと言える。

だからこそ、今作は痛みに満ちた言葉が綴られているのと同時に、風通しの良いアルバムになっている。どちらが一人が欠けていては出来ない表現だ。二人のセッションが生むメロウで、生々しい煙にシーン全体がむせ返る日はすぐそこまで来ている。

Credit

Writer : 朝田圭彦

1998年6月15日生まれ、山梨県出身。ラップを中心としたブラックミュージック全般、映画に関する文章を執筆。(Twitter : @WhiteFerrari98

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